システム管理者が知っておくべき経営視点、戦略的な情シスになろう!

第1回 戦略的な情シスとは経営とのコミュニケーション、Windows10の有償サポートは非現実的なほど高いので、予算取りに動こう!

概要

企業のシステム管理・システム企画部門のビジネスパーソンを読者対象に想定。特に、いわゆる「一人情シス」「兼任情シス」「立場が弱い情シス」にウエイトを置いた内容にします。日々の業務とDX戦略を結びつける「手がかり」の視点や、手が回らないITの経営戦略業務への関わり方など、いわゆる「情シス」と「経営」のインターフェース領域の話を中心にして記事に汎用性を持たせます。

はじめに
他部門が情報システム部門(情シス)に対して思っていること
システムに関わる、良くある負のスタンス問題
大企業の経営者にとっても、情報システム部門(情シス)の扱いは難しい
戦略的な情シスは、社内に対する発信の積み重ねが大事!
今回のWindows10サポート問題は経営課題だが、端末入れ替えは業務改革の好機でもある。情報システム部門は経営サイドと意思疎通を図っておこう。早めに!

はじめに

今更の話で恐縮ですが、2018年に経済産業省がリリースした「DXレポート」が話題になったことで、デジタルトランスフォーメーションやDXという言葉も日本企業に定着しました。「DXレポート」は、多くの企業が漠然と感じていた危機感を言語化したことで、広く一般的に受け入れられたのでしょう。「DXレポート」が作った大きな流れとして、「 IT資産のコントロール」が経営課題と認識された変化は好ましいことです。

さらに2020年から数年のコロナ時代、企業規模の大小に関わらず、否が応でもテレワークやWeb会議の導入が進みました。ペーパーレス化の必要性も以前より強く認識される様になりました。もちろん一定の拒否反応や問題点もありましたが、システムの経営戦略に占めるウェートを認識した経営者もまた多かった様に思えます。経営者の本音レベルとして「システムは、セキュリティは外部から怒られない程度にして、自分が経営者のときに投資したくない」が以前は珍しくありませんでした。が良い悪いはともかく、経営マインドも「情報システムの最適化で生産性が上がる」に変化しつつあります。

本コラムでは、企業規模の大小に関わらない「情報システムと経営の関わり方」を、今日的な組織全体の生産性の観点から解説していきます。特にいわゆる「一人情シス」「兼任情シス」にとって、日常で入手しにくい内容にしたいと考えています。

 

他部門が情報システム部門(情シス)に対して思っていること

「他部署からは何もしていないように見える」が9割!

バックオフィス部門でも人事部や総務部はやっている事が分かり易いので理解され易いです。経理部や財務部もシステム部門と似た様な所があり理解されづらいのですが、マネージャー職ぐらいの立場になると、会計っぽいことを何となくは解っていないと立場的にキツいので、人は理解しているフリをします。

ところがシステム部門の場合、一定のITリテラシーが無い大多数の人からは「社内インフラの管理人」以上の理解は得られず、「印刷ができない」、「共有フォルダが開かない」、「ネットが繋がらない」、「メールがおかしい」、などのサポート業務ぐらいが見える範囲です。時間を取られることと、他部門からの評価は別問題なんです。

経営者も同じような認識の場合は最悪ですが、珍しくはありません。「システムは費用予算を食うコストセンター」の側面で考えがちになってしまいます。ですからSAPが営業DBとして大人気な規模の企業でも、フロント重視&バックエンド軽視が普通に繰り返されるメカニズムが働きます。

 

システムに関わる、良くある負のスタンス問題

上記のように、他部門の情シスに対する思いがITリテラシーに由来する事象だと、本音の部分での相互理解は難しい領域になります。しかし下記のようにネック事象を具体的に言語化できていれば、回避可能な事柄もあるでしょう。

経営(役員)層に多い問題

・業務フローやプロセスの整理整頓がされていない問題なのに、原因を人材の質や人間関係に求めたがる。
・業務知識の実態をアップデートできていないケースでは、本質とズレた議論になりがち。
・権限や役割を明確にしたがらないゆえ、結果としてプロジェクトマネジメントの難易度が上がる。

情報システムのマネジメント(部長)層に多い問題

・自分たちで考えず、すぐに外部業者やコンサルに問題解決を丸投げしがち。
・問題提起を避け、他部門や社外から課題が提案されるのを待つ傾向。
・組織として知見を集積する集合知の感覚に薄く、担当者の個人スキルに依存する傾向。

情報システム部門の担当者層に多い問題

・属人性の問題を、特殊性や専門性と認識しがち。
・全体最適より、個別最適に陥りがち。

システムコンサルタントに多い問題

・人月ベース(稼働時間ベース)で業務を行うので、重要性の取捨選択に疑問の場合も。
・代理店ビジネスを兼業しているケースでは、必ずしもクライアントに最適化した提案で無い事も。
・戦略立案、情報収集と整理、課題の明確化は得意なものの、具体的な解決の部分をクライアント側の現場に丸投げて行き詰まる事も。戦略系コンサルファームの大手だと「契約に、戦略を実現する為の具体的な方法論を考えることは含まれていない!」も聞く話。

 

大企業の経営者にとっても、情報システム部門(情シス)の扱いは難しい

2017年に、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が「クラウドファースト」の基本方針をリリースし、AWSをシステムインフラの標準基盤とすることを表明しました。日経コンピュータが特集記事で掲載したこともあって、結構な話題になったことを記憶している方もいらっしゃるかと思います。

システムを大きくイジるのは、全社横断的な話になります。一時期流行ったCIO(Chief Information Officer=最高情報責任者)などは、縦型の部課組織に「横串を刺して」話を進めるのが本来の目的であり機能です。アメリカのトップダウン型組織では上手く機能しました。

しかし伝統的な日本型組織で「横串を刺す」マネジメントは、特に業務改革は、なかなか上手く機能しません。他人(他の役員)の縄張りには権限が及ばない慣習が、部門横断的な変革を難しくする理由です。現実的にCIOの権限が及ぶ範囲は自分直属の部下までで、他人のシマに土足で入るのは日本型組織ではタブーです。そして不思議なことですが、多くの社長にとってのシステム部門にも同じ理屈が働きます。自分の専門外 = 他人のシマ = 一定の忖度が必要 が起動してしまうと、先頭に立ったリーダーシップは難しくなります。CIOでも同じメカニズムが働きます。

もちろんCIOの抽象的な職務分掌を「横串を刺す」のが難しい理由に挙げる人も多いです。ただし上記の権限の壁が、CIOの権限を職務分掌として明示しては不味い理由でもあるので、根っこは同じ話でしょう。冒頭のMUFGのクラウドファーストは、「例外的に非常に上手くDXした!」ゆえ大きな話題になった!のケースなので、普通の会社での事例ではありません。

組織論的な難しさはあるものの、それでも相互の社内コミュニケーションからがDXの始まりです。

 

戦略的な情シスは、社内に対する発信の積み重ねが大事!

・情シスは受け身で提案してくれない
・情シスは自分で業務範囲を限定し、情シス以外が行っている業務に自分から入ってこない

経営者や営業部門が内心思っていることを放置するのは、「評価されない」仕事を作っていることになり、会社経営としても、人材定着の観点からも非常に危険です。しかし情報システム側は「共通の話題が無くコミュニケーションが難しい」などと思ったりします。「うちの会社は理解が無い・・」とか、「CIOは貧乏クジ・・」とか情シス定番のグチですが、そんな事言っても相手からシステム関連の話題を振られることはまずありません。

情報システム部門のマネージャー層で社内政治が得意な人は希少価値です。経営者がシステム投資案件を稟議書の形で見て、判断をペンディングしたくなるのは普通に理解できます。重要な事ほど事前ネゴが重要です。知らない人に専門用語で語るのは、説明の内に入りません。

情シス以外の人にとって、サーバーの稼働報告は何の興味もありません。経営者やマネジメント層に対しては、業務や経営に関わる事象でコミュニケーションすべきです。
・業務改革への専門家としての提言
・情報システム部門の明確な業務内容はリスト化しておく

また細かいことですが、社員に対してはグループウェアのヘッダーに「お知らせ」を表示させるなどは簡単で定番の手法です。やり過ぎると「くどい」ので逆効果になりますから注意しましょう!

 

今回のWindows10サポート問題は経営課題だが、端末入れ替えは業務改革の好機でもある。情報システム部門は経営サイドと意思疎通を図っておこう。早めに!

<最初に結論から>

端末入替は面倒です。資金も必要です。会計にも影響します。1台当たり20万円以上のパソコンだと4年の減価償却になります。10万円以上20万円未満のパソコンは3年均等償却で計上します。

キッティングして端末導入する規模の会社なら、この機会がシステム構成の見直しタイミングですから、社内の要件調整を始めましょう。

<Windows10の今後>

Window10は2025年10月にサポートが終了される予定です。しかし日本ではWindows11への移行は進んでおらず、2024年4月末現在でWindows 10のシェアが60%程度あります。

そしてどうやら今回は、スケジュールの延期が期待薄の流れです。2024年4月2日、サポート終了後もWindows 10を使い続けたい法人ユーザーに向けた、拡張セキュリティ更新(ESU)プログラムの料金体系(サブスクリプション)が、Microsoftからリリースされました。
https://techcommunity.microsoft.com/t5/windows-it-pro-blog/when-to-use-windows-10-extended-security-updates/ba-p/4102628

一部で話題になっている通り、エゲツない延長サポート料金で公表されています。MicrosoftはOS移行を早急に進めたい意図なのでしょう。Windows11には32bit版がありませんので、特に独自アプリを使っている場合は、どっちみち動作チェックがネックになります。

・1年目1台61ドル(約9,500円/税抜)
・2年目1台122ドル(約1万9,000円/税抜)
・3年目1台244ドル(約3万8,000円/税抜)
・4年目1台488ドル(約7万6,000円/税抜)

対応A案:Windows11パソコンに端末入替する
対応B案:Windows10から11にOS無償アップグレードする
対応C案:すでにWindows11に移行済みなので関係ない。
対応D案:延長サポート料金を払い、そのまま使い続ける。
対応E案:延長サポート(拡張セキュリティ更新)を受けず、そのまま使い続ける。
対応F案:今回も「サポート期間が延長される」に賭けてみる

A案が現実的で、今後1年以内を目処に端末入替するのが多数派になるかと思われます。

B案は少し面倒です。Windows 10は、Windows 7/8.1からの無償アップグレードが可能だったゆえ稼働台数が多い経緯があります。相当スペックの低いパソコンでなければOS無償アップグレードを適用できますが、その相当スペックの低いパソコンが企業現場では普通に稼働しています。「P C管理台帳」が無い会社も多いでしょう。一台一台OSをインストールする面倒な作業を覚悟する必要もあります。使用用途とハードスペックなどを勘案したケースバイケースになるでしょうが、少しクラクラします。

D案・E案は、あまり合理的な判断とは思えません。

F案は、事前準備さえしっかりやっとけば案外悪く無い選択肢かもしれません。また円安は、基本的に端末価格が上がるので、端末導入に適した時期でもありません。現在の内需企業の景況感は決して好ましい状況ではありませんから、経営判断として半年〜1年弱は様子を見るのは有りです。この場合は特に導入時の時間軸がタイトになるので、動作チェック等の事前準備は早めに初めましょう。

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筆者紹介

高階 修(たかしな おさむ)
1967年生まれ

大学卒業後、1995年に株式会社ジャックスに入社。バブル崩壊~金融再編の激動期を、上場ノンバンクの経理財務本部にて勤務する。投資家、経営コンサル、債権管理回収会社(サービサー)の運営を経て、2022年8月に経営コンサルティング会社「松濤bizパートナーズ合同会社」を設立、代表に就任。
数多くの企業の破綻再生事例を背景に、経営のヒントと実務ノウハウを伝授する。システムなどバックオフィス部門の経営や、営業などのプロフィット部門からの孤立化(サイロ化)を修正することを含め、財務諸表や事業計画を再構築し、生産性の向上を図る。
趣味は砥石を使って包丁を研ぐこと。過熱水蒸気調理は面倒なので使わない派。
著書に「小さな会社の経営企画」
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松濤bizパートナーズ合同会社 
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