システム管理者が知っておくべき経営視点、戦略的な情シスになろう!

第3回 成果考課シートの書きようがないのはシステム部門だけじゃない、バックオフィス部門共通の悩み!

概要

企業のシステム管理・システム企画部門のビジネスパーソンを読者対象に想定。特に、いわゆる「一人情シス」「兼任情シス」「立場が弱い情シス」にウエイトを置いた内容にします。日々の業務とDX戦略を結びつける「手がかり」の視点や、手が回らないITの経営戦略業務への関わり方など、いわゆる「情シス」と「経営」のインターフェース領域の話を中心にして記事に汎用性を持たせます。

チャレンジシート、目標管理シート、成果シート、業績評価シートなど、会社によって呼び方は様々です。そもそも間接部門の成果目標設定は難しいのですが、特にシステム管理部門や経理財務部門のような「水が流れるが如く、何事も無く滑らかに事業を遂行させること」がミッションの部門にとっては、昔から悩みの種です。

「人事制度や給与制度は永遠の課題」の側面があるのですが、特に近年では「成果考課面談」とか「1on1面談」などで考課者(管理職)側の運用負担も増大しています。特にプレイングマネージャーの中間管理職がきつく、生産性の観点からも「なんとかならないのか?」と言われることも珍しくない課題です。

考課する側・考課される側の双方で悩ましいことが多くなってきた昨今なので、簡単に整理してみましょう。

そもそもの賃金体系の種類
雇用システムと成果主義はセットなのが本来
メンバーシップ型雇用と働き方改革の関係
バックオフィス部門やスペシャリストと成果給制度の相性は微妙
「シス管の考課」特有の問題点

そもそもの賃金体系の種類

賃金体系を示す日本語が統一されていないのも分かり難い原因なのですが、内容的には以下の4つの考え方の流れに分類されます。ただし、現在は下記の給与制度単独で適用するケースより「複数の給与制度を組み合わせて運用する」ケースが主流になっています。昔より精度が複雑化し難しくなっており、より良くしようとした結果、人事畑の人じゃないと自社の制度がよく分からないなど笑えない状態も現実にはあるようです。

年功給制度(年功序列賃金体系)
日本の伝統的な賃金体系で、新卒一括採用&終身雇用制の会社との相性が良い側面があります。現在でも完全に廃止しているケースは稀です。

職能給制度
経験を重ねるに従って従業員の能力が成長していく前提で組み立てる制度体系です。人の能力を正しく評価することは難しいですから、事実上、年功給制度の代替として結果的に大差無い運用になるケースも多いです。

役割給制度
個人の能力ではなく、仕事の役割(職位)に賃金を貼り付けた体系です。係長・課長・部長と肩書きが上がるに従い仕事の価値が上がる前提です。

成果給(業績給)制度(成果主義賃金体系)
仕事の成果や、設定目標に対する到達度に応じ賃金が決まる給与体系です。定量的に成果を計測できる部署では評価しやすいのですが、成果を数値として表現しにくい部署では目標や評価基準の設定が困難です。

 

雇用システムと成果主義はセットなのが本来

「ジョブ型雇用」の欧米は「就職」、「メンバーシップ型雇用」の日本は「就社」と考えるとわかり易いかもしれません。

そもそも「ジョブ型雇用」の欧米では、職務分掌(Job Description)に書かれたことを実行するのが仕事で、社員の責任と権限が明確です。むしろ職務分掌(Job Description)に書かれてないことをするのは、「他人の仕事を奪う」悪いことのイメージです。給与も「ジョブ型雇用」が大前提ですから年功給などは合いません。一人一人の職務(仕事内容)が明確に決まっていますから、一般社員には査定が無いことが普通です。成果や成果に向けた経過を重視するマネジメントは、一般社員より上位の階層のみに適用されます。

日本は「メンバーシップ型雇用」で、個人の業務内容を細かく決めずに仕事を割り当てる方式です。スペシャリスト(1つの分野を極める人)よりもゼネラリスト(幅広い知識や経験、スキルを持つ人)志向とも言えます。村社会の延長線上が「メンバーシップ型雇用」という意味合いもあるので、新卒一括採用や終身雇用との親和性が高いとされています。価値観が一様な村社会の反面として、時短勤務やフリーランスやアライアンスなど、働き方や価値観の多様化に対応し難いとも言えます。

 

メンバーシップ型雇用と働き方改革の関係

少し話がそれますが、日本でテレワークの是非を云々言っているのも、そもそも論として「メンバーシップ型雇用」が背景にあります。担当業務を明確に規定していないメンバーシップ型雇用なので、業務の割り振りの繁閑調整や、新しい業務が発生した際など、随時上司が調整したり細かく指導を行ったりしなければなりません。しかし多くの管理職にとっては、テレワーク環境で報連相を受け取って調整や指導を行うことが、難しかったり業務負荷になったりして、組織運営に難が出ることも珍しくありません。

また育児時短勤務が社員間で「不公平」と感じられ上手くいかないケースも、同じような背景です。個人の業務内容を細かく決めずに結果を合わせる職制ですから「給料に反映されない仕事が寄ってくる」のは避けられないものの、受け入れも多様な価値観ゆえに「不公平」と感じるのも避けられません。

 

バックオフィス部門やスペシャリストと成果給制度の相性は微妙

複数の給与制度の組み合わせでも、特に成果給のウエートが大きい場合を「成果主義賃金体系」と言ったりします。バブル崩壊後ぐらいから人事畑の業界で大流行しました。

ベストセラーになった『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』はこの頃(2004年)の本で、当初からメリットデメリットを抱えていました。昨今ではメリットデメリットも出尽くした感がありますが、「成果考課する作業での労務負荷」や「考課評価に対する不平不満」も依然として成果給部分から発生していることが多く、富士通ほど極端では無いにせよ、安定した仕組みとは言い難いのが現状です。

・「役割が明確に決まってない仕事」「数字で定量的に測れない仕事」が成果考課の対象とならないことから宙に浮き易くなる。このような仕事はバックオフィス部門に多く、最初は当番や担当を決め対処しようとするが、細かい調整すぎて破綻しがち。

・長期的な課題や業務、数字で評価しにくい定性的な課題は、中間評価や期末評価では成果考課しようがないのが上席者や考課者の本音。それゆえ、長期的なミッションは成果目標に設定されない傾向あり。

・上記が極端になると、期中に解決可能なことのみ成果目標に設定するようになる。また、成果物の量や案件数、ドキュメント数など定量評価が可能そうな事象だけ目標設定するケースも。

 

「シス管の考課」特有の問題点

組織の中でシステム部門が多数派な会社は稀ですから、給与制度はどうしても多数派に合わせて作られます。バックオフィス部門と成果給(業績給)制度の相性は悪いものの、多数派に合わせ無理くり運用するのも経営ニーズで、全く不合理という訳でもありません。
しかし、専門性が高い分野や定性的な仕事は上席者や考課者が必ずしも適切に評価可能とは限らず、特にシステムの場合は下記のような構造的な部分も、バックオフィス部門の中でも成果考課が難しい職種とされています。

①客先常駐の場合は「見えない」ことが加わり評価の難易度が通常より高い。
②特に一人情シスの場合「評価者が適切な目標設定をできない」「評価者が正しく評価できない」ことが起こりやすい。
③システムが典型的なコストセンター(利益生まない間接部門)の位置付けの場合、好業績でもシス管の報酬をUPする理由付けに苦慮する。
④スペシャリストは自分自身でスキルを高め業務執行するものだが、スキル構築は成果考課しにくい。

制度の問題なので、現場サイドで解決できることは少ないかもしれません。社員側の納得感は運用(中間評価者の面談やコメントの工数)で確保するとの言い方もあり、本末転倒な部分もあります。

やり易いジョブ型雇用の場合は例外として、「自分の成果考課シートの仕組みを理解した上で、あまり完璧主義でやろうとせず、考課者の苦労に忖度しつつ意思疎通するのが大事!」くらいの意識が、企業内シス管のポイントかもしれません。

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筆者紹介

高階 修(たかしな おさむ)
1967年生まれ

大学卒業後、1995年に株式会社ジャックスに入社。バブル崩壊~金融再編の激動期を、上場ノンバンクの経理財務本部にて勤務する。投資家、経営コンサル、債権管理回収会社(サービサー)の運営を経て、2022年8月に経営コンサルティング会社「松濤bizパートナーズ合同会社」を設立、代表に就任。
数多くの企業の破綻再生事例を背景に、経営のヒントと実務ノウハウを伝授する。システムなどバックオフィス部門の経営や、営業などのプロフィット部門からの孤立化(サイロ化)を修正することを含め、財務諸表や事業計画を再構築し、生産性の向上を図る。
趣味は砥石を使って包丁を研ぐこと。過熱水蒸気調理は面倒なので使わない派。
著書に「小さな会社の経営企画」
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松濤bizパートナーズ合同会社 
 https://partners.shoutou.me/

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