概要
企業のシステム管理・システム企画部門のビジネスパーソンを読者対象に想定。特に、いわゆる「一人情シス」「兼任情シス」「立場が弱い情シス」にウエイトを置いた内容にします。日々の業務とDX戦略を結びつける「手がかり」の視点や、手が回らないITの経営戦略業務への関わり方など、いわゆる「情シス」と「経営」のインターフェース領域の話を中心にして記事に汎用性を持たせます。
そもそもDXの話は、経済産業省の内部(研究会や諮問機関)で行われた議論の内容がまとめられた資料が公開された所から始まりました。
・2018年9月 DXレポート
・2020年12月 DXレポート2
・2021年8月 DXレポート2.1
・2022年7月 DXレポート2.2
・2024年9月 DXレポート3.0
最初のDXレポートの出来が良く、かつ「2025年の壁」というキャッチーな言葉で、レガシーシステム更新の観点をズームアップして問題整理した分かり易さもあり、世の注目を集めて一定の成功を収めました。”DX”という言葉が一般に語られ始めたのもこの頃からです。
しかしキャッチーな言葉の反面として『DX = レガシーシステムを更新すること = 現在のスキームで上手く回っているから関係ない』という困った解釈も広まってしまいました。「伝わり方で、意味する本質と離れてしまった問題」というよくある話で、「問題提起はしたものの社内で経営者に対して説明し動かす際のネックになってしまった」という側面も出ました。この負の側面は、現在まで尾を引いています。
最新の資料、経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0(旧 DX推進ガイドライン)」によると、経済産業省はDXを以下のように定義しています。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
2018年に発表された最初の「DXレポート」では、後段にある『ビジネスモデル、業務そのもの、組織、プロセス、企業文化・風土』の変革は明示されていませんでした。DXレポート3.0では、そもそも論の「経営変革と電算システムの関係」の側面を、ダイレクトに露出させています。
- デジタル化 ≠ DX改革
- 【DXは単なる経営戦略の一つ】
- 【外部業者が入るのは各論の部分】
- 【既存ビジネスの付加価値向上】
【デジタル化 ≠ DX改革】
そもそも論を出すと抽象的な概念が入ってしまい、セールス現場のツールとしては使えません。そして単純化、シンプル化した概念に置き換わってしまった、結果的に課題問題が矮小化されてしまったのが現在の流れです。ちょうどコロナ時代が挟まったことも一因にあるでしょう。
・テレワークを導入し、出社を減らそう!
・Webミーティングを導入しよう!
・書類をペーパーレス化しよう!
これはこれで便利なツールですから、各論としては良いのです。AIを使った各種サービスも便利なツールですよね。しかし各論のビジネスツールの話と、総論であるDXが本質的に言っている企業改革の話とでは、そもそも話のステージが違います。
各論・・客先常駐、ハンコ決済、対面営業、印紙、これらを代替するITツールを導入しよう。
総論・・当然だった企業文化や商慣習や業務ルールが、生産性向上の阻害要因になっているなら改革しよう。
↓↑
背景と目的・・・社会の変革に対応しないと、企業競争力が維持強化できず、企業の持続的発展が困難になる。
【DXは単なる経営戦略の一つ】
設備投資や資金計画や営業政策や人事政策は、代表的な経営戦略です。それぞれの戦略が孤立(サイロ化)していませんよね。全ての経営戦略は相互に関係付けられているのが普通です。俗に言う『人・物・金』の話で、どれか一つだけが突出して重要とかの話にはなりません。『人・物・金』に「技術」や「知識」を加える考え方もポピュラーですが、「IT」の重要度が年々増しているので「追加しなければ!」がDXです。
なので、総論無しに「ITが苦手」と担当者や外部業者に丸投げすると経営戦略のパーツが一つ抜け落ちます。ITを使った変革に経営者のリーダーシップが必要なのは、単純な理由ですよね。通常の経営戦略と同様に、ITやDXの話も、常に考えて改良していく物です。ただITの分野は、従来の『人・物・金』の領域より変化のスピードが速いので、考える知識の前提もまた更新し続ける必要があり、「ITが苦手」になるメカニズムです。
それでも、各論のITツールの話を経営戦略の一部として有機的に結合するには、「デジタルプラットフォームの形成」と「DX人材の確保」は必須で、これは経営そのものの仕事です。これを担当者の立場で見れば、DX人材になることが企業内でのポジションになります。
【外部業者が入るのは各論の部分】
DXの本質を企業改革とするならば、それは企業内で内製する戦略の話です。ところが、外部業者にとっては物やサービスを売ることが目的ですから、各論で「このサービスを導入すれば、年〇〇円の導入効果が期待できます。」といった売り文句になります。
ところが各論の小さな目的だけでやると、「紙の資料の方が一覧性があって便利」「電子化で組織管理やコミュニケーションが低下する」などの理由が出てきて、大抵の場合は当初の導入効果が出ません。稟議書に書いた餅になります。
これはシステム開発をする時の「現業保証をやりすぎて業務効率は旧来と大差なかった」問題と似ています。
仕事のやり方そのものに手を入れるのがDXで、それゆえに生産性が改善するのですからITツール自体は道具です。外部からの営業トークとしては「便利な道具を使えば効率化するよ。」で全く間違いでは無いのですが、「効率的な事業運営に変革するのに必要な道具を使いこなそう。」のDXとは順番が違います。経営目線と現場目線で話が噛み合わなくなる部分です。
【既存ビジネスの付加価値向上】
DXレポートでは「デジタルの力を、効率化・省力化を目指したITによる既存ビジネスの改善にとどまらず 〜中略〜 新規デジタルビジネスの創出に振り向けること」と、DX推進を大上段に構え過ぎな部分もあります。経済産業省なのでIT関連の新規ビジネス創出を言いたいのも理解しますが、ITベンチャーの話と既存ビジネス事業者での話を同一に語るのには無理があります。
「ペーパーレス化したら儲かった」という会社は無いでしょう。本質的には「各種承認を電子決裁にして効率化したい。効率化の為にデジタルプラットフォーム基盤を作って業務しよう。その為には紙ベース情報では使い難いからペーパーレス化せねばならない。」ですね。
ワークライフバランスの話をしている会社で、「ハンコを押す為だけに出社しなければならない」というのはよくある笑い話ですが、どうしても定量的な費用対効果に馴染まない領域の話が出て来ます。
上記は効率化の例ですが、効率化の少し先に既存ビジネスの付加価値向上があります。ITを活用した変革で既存企業が置く目標としては現実的です。計画的なDX経営で企業価値向上が期待でき、経営戦略として組織横断的に取り組むのが必要条件です。
年末年始頃は、企業の中期経営計画の策定がスタートし、AI導入を盛り込む既存企業も多いように見受けられます。AI導入自体は目的ではなく、付加価値や効率化にAIをどう使うかが目的になります。
連載一覧
筆者紹介
1967年生まれ
大学卒業後、1995年に株式会社ジャックスに入社。バブル崩壊~金融再編の激動期を、上場ノンバンクの経理財務本部にて勤務する。投資家、経営コンサル、債権管理回収会社(サービサー)の運営を経て、2022年8月に経営コンサルティング会社「松濤bizパートナーズ合同会社」を設立、代表に就任。
数多くの企業の破綻再生事例を背景に、経営のヒントと実務ノウハウを伝授する。システムなどバックオフィス部門の経営や、営業などのプロフィット部門からの孤立化(サイロ化)を修正することを含め、財務諸表や事業計画を再構築し、生産性の向上を図る。
趣味は砥石を使って包丁を研ぐこと。過熱水蒸気調理は面倒なので使わない派。
著書に「小さな会社の経営企画」
https://amzn.asia/d/aT558Vf
松濤bizパートナーズ合同会社
https://partners.shoutou.me/
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