システム管理者が知っておくべき経営視点、戦略的な情シスになろう!

第6回 システム費用は「コスト」じゃ無いの表現は、経営者に通じない

概要

企業のシステム管理・システム企画部門のビジネスパーソンを読者対象に想定。特に、いわゆる「一人情シス」「兼任情シス」「立場が弱い情シス」にウエイトを置いた内容にします。日々の業務とDX戦略を結びつける「手がかり」の視点や、手が回らないITの経営戦略業務への関わり方など、いわゆる「情シス」と「経営」のインターフェース領域の話を中心にして記事に汎用性を持たせます。

今回は、システムコンサルの『それっぽい』言葉が、経営に響かないメカニズムを紹介します。
大前提として、真っ当な経営者は、会社の業績を会計数字の括りで見て考えます。ここを感覚的な独自ルールで語っても、共通の土俵に立てません!

『ITをコストとしか見られていない経営者』のような、システム関連の雑誌や書籍、IT系コンサルの方が”しばしば”使うネガティブな表現があります。言わんとする意図は分からなくも無いですが、投資やコストの言葉を感覚的なニュアンスで使うのは、経営者との意思疎通の妨げになり避けるべきです。

この表現は、経済産業省のDXレポートが混乱を生んだ元凶の一つだと思われますが、

『システムコスト』は保守運用費用で後ろ向きなネガティブ表現
『システム投資』は収益を生む前向きなポジティブ表現

こんなニュアンスで定義して使っている人が意外と多いのです。この概念は、経営の現場から見ると違和感しかありません。お金には色がないように、会社に出入りするお金は、必ず会計処理を通して認識されます。

そして、経営者が最も見ている会社の業績数字は、損益計算書、いわゆるP/Lと言われる表になります。あまり深入りは避けますが、P/Lを超単純化すれば下記程度のことしか表現していません。

【P/Lの骨格】収入ー費用=利益
  
【費用の部】の内訳
 人件費
 物件費
 電算費

【電算費の細目】・・システム管理費、ソフトウェア資産の減価償却費、ハードウェア資産の減価償却費、etc.

「システム開発だけなぜコスト勘定なんだ、投資として捉えろ!」などとネガティブなニュアンスとして言った所で、ソフトウェア投資も『資産』として、P/Lとは別の表のB/S=貸借対照表に計上し5年で減価償却します。毎年5等分したソフトウェア資産の減価償却は、電算費の内数としてP/L=損益計算書にて費用として認識されます。これが、経営者が見ている電算投資の数字の仕組みです。ちなみに会社の数字を年に1回〆ることが『決算』です。

投資だから費用じゃ無い!と言った瞬間に、話す時間が勿体無いですから、真っ当な経営者からは相手にされなくなりますよね。

投資=前向きで良い事
費用=後向きで悪い事

こんな概念は会社数字(B/SやP/L)の世界には存在せず、マイルールに過ぎません。経営の現場から見ると、「投資として捉える」などという甘い概念では、無責任で潰れてしまう恐怖感が先立つのが真っ当な感覚です。投資だからと言って、P/L=損益計算書に算入されない訳ではありません。投資だからと言って、費用対効果(ROI)を考慮しない経営者は稀でしょう。

「IT投資には攻めと守りがある」といった表現も、気持ちは理解できますが、経営者からすると違和感がある表現です。

『守りのIT投資』としてシステムの保守運営費や電算機器のリプレイス、法的対応やコスト削減を目的としたシステム対応などを例示してネガティブな表現で語られるケースが多いですが、根本的に維持費と新規投資は異なります。レガシーなシステムを放置しないなら解りますが、維持費と新規投資を同列で語る論調が生産的でしょうか?

 

じゃあ、どうすれば経営陣を説得できるの?

根本的な構造問題は日本の大手企業でも珍しくなく、これを現場サイドで解決するのは困難なのが実情です。

経営メンバーにIT部門出身者がいない
=社内でIT部門の地位が低い
=費用対効果(ROI)ぐらいしか価値判断ツールが無い。

特に、定性効果の領域はROIの計算と『相性が悪い』のが普通です。経営メンバーに価値を理解してもらうため、エンジニアやコンサルタントが入り事業の中で見込める期待利益の資料を作ることもありますが、『本来は定性効果として評価せねば意味が無い』所を無理やり定量効果っぽい資料を作ったりして、生産性の観点からは疑問がある作業もままあります。

どうせ苦労をするなら、方法論は個社の事情により異なるでしょうが、『会社が許容できるリスク金額の範囲でのスモールスタート』が、経営者に理解してもらえない時の現実的な回答になるケースが多いでしょう。

しかし、それ以前の問題として(特に一人情シスで回している規模の会社では)IT支出を予算計上しているケースが少ない(予算取りしている会社は半分も無い?)傾向があります。近年はSaaS契約などが一般的ですから「気づいたら誰も管理してなくてお金だけ払ってた」なんて冗談みたいな話も耳にしてます。システム部門の職務分掌が限定的な場合に発生しやすい傾向では無いでしょうか。

経営者にとっても本来は計画的な投資が望ましいのは言うまでもありません。会社によっては権限移譲の問題も出て来ますが、経営者に問題を認識してもらう為にも、期初に予算取りしてしまうのは有効な一手です。

 

余談ですが

 

大手人事系コンサルや採用支援会社の世界で、採用と教育を「投資」と表現しているのをシステム部門が真似する必要はありません。

日本では、正社員の解雇を厳しく制限する雇用関連法制ですから、正規雇用すると支払う賃金(=人件費)が将来に渡って固定費化されやすい特徴があります。固定化される期間はソフトウェア資産の償却期間5年などより圧倒的に長いですから、終身雇用を前提とする採用を『投資』と捉えるのには一定の説得力もあります。もちろん、月々の賃金を人件費としてP/L(損益計算書)に計上し費用として認識するのは、電算費と全く同じです。近頃の人事の世界では「人的資本経営」と言う内輪な用語も流行し、日本語的な意味不明度に拍車がかかっている状態です。

 

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筆者紹介

高階 修(たかしな おさむ)
1967年生まれ

大学卒業後、1995年に株式会社ジャックスに入社。バブル崩壊~金融再編の激動期を、上場ノンバンクの経理財務本部にて勤務する。投資家、経営コンサル、債権管理回収会社(サービサー)の運営を経て、2022年8月に経営コンサルティング会社「松濤bizパートナーズ合同会社」を設立、代表に就任。
数多くの企業の破綻再生事例を背景に、経営のヒントと実務ノウハウを伝授する。システムなどバックオフィス部門の経営や、営業などのプロフィット部門からの孤立化(サイロ化)を修正することを含め、財務諸表や事業計画を再構築し、生産性の向上を図る。
趣味は砥石を使って包丁を研ぐこと。過熱水蒸気調理は面倒なので使わない派。
著書に「小さな会社の経営企画」
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松濤bizパートナーズ合同会社 
 https://partners.shoutou.me/

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