知的で快活なチームは、解くべき課題を正しく見つけ出し、集合知を発揮し、知恵とノウハウは自然に伝承され、また応用進化し、ひいては事業の発展に繋がります。ここで言う「チーム」とは、プロジェクティブなものだけではなく、日常の職場でのチームを含みます。組織編制では部の下に課が、その下に係や班が編成されます。課の中が単なる個人の集団になっていませんか。みなさんの職場には日常的に「チーム」といえるものがありますでしょうか。
職場のコミュニケーションや育成の話題になると、「ゆとり世代」・「さとり世代」など、とかく世代差のことを言いたくなるようです。4000年前のエジプトの遺跡に「最近の若い者は・・・」というような言葉が残されていたそうですが、世代の違いや育った環境の違いはいつの時代にもあるものです。それでも人は人と協力し相互依存しながら偉大な文明や文化を残し、進化を続けています。職場の個人化が進む原因は、世代差などではなく、チームを作り育てるという意図や意思の有無によります。
一つは、学習と成長が自律的に行えるかということです。タテの繋がりだけの職場では、担当者間での情報共有やスキル差の解消を、一旦上を介して行うことになります。そうすると、組織としての指示がなければ、スキルアップによる生産性の向上や、学習による解決力の向上は個人任せになってしまいます。実際のところ、課の中の育成担当者を組織的に決めないと育成が進まなかったり、あるいは決めていても育成担当者との一対一の関係しかなく、他のメンバーからのアドバイスがもらい難い環境になってしまうことがあります。「育つのが遅い」と言われる職場の典型です。
二つめは、境界を超えた協力がスムーズに行えないということです。いわゆる組織の壁です。部門間で連携を行おうとすると、部門長同士で物事を進める必要が出てきます。一方で、実際に仕事に取り組むのは担当者であり、仕事を個人で請けてしまうと、直接に連携を取ることが難しくなります。組織同士の役割や責任、権限の話に及ぶこともしばしばではないでしょうか。
タテの繋がりだけで物事を進めようとすると、成長や学習、連携や解決をルールやしくみに頼って進めることになります。環境に変化がなく、成長を必要としないのであればタテだけでも成り立つかもしれません。しかし成長を望むのであれば、これらの問題を解決するための、もう一つの軸が必要です。
2)ヨコ「チーム」
ワーキング・グループの目的はメンバー個々の業績水準を底上げすることであり、その成果は個人の成果の総和にしかならない。いっぽうチームには、他人の意見に耳を傾け、建設的に反応し、ときには他人の主張の疑わしき点も善意に解釈し、彼らの関心ごとや成功を認めるといった価値観が集約されたチーム・ワークが存在し、その成果は集合的作業成果による共同の貢献が含まれるので、グループのそれより大きくなる。(”The Discipline of Teams”, Harvard Business Review, 1993. Jon R. Katzenbach and Douglas K. Smith)
20年以上前の論文ですが、この当時からすでに「グループは足し算、チームは掛け算の成果を出しうる」と言われています。
ヨコのつながりとは、人と人が知恵と時間を出し合って助け合う関係で、チームを指します。
日常の仕事では担当者同士で情報を交換し、教え合って仕事に取り組みます。人は仕事の進め方を考え、実行し、目標を達成します。この過程で学習があれば、解決力を高めることができます。「もっとうまい仕事のやり方はないものか」と探究し、知的に生産性を高めていくということです。このとき、全くの個人のみで学習を続けることができる人はまれで、同僚(ヨコ)を見て自己牽制や自己発奮することで継続的に学習を行えます。
また、職場にチームがあれば、日常的なコミュニケーションやディスカッションを通してアドバイスや情報交換、相談を行い、意識的にも無意識のうちにも学習が進み、成長に繋がります。チームが存在せず、上下関係と個の存在だけでは成長は極めて困難です。
3)タテをうまく生かしてヨコを高める
ワーキング・グループの目的はメンバー個々の業績水準を底上げすることであり、その成果は個人の成果の総和にしかならない。いっぽうチームには、他人の意見に耳を傾け、建設的に反応し、ときには他人の主張の疑わしき点も善意に解釈し、彼らの関心ごとや成功を認めるといった価値観が集約されたチーム・ワークが存在し、その成果は集合的作業成果による共同の貢献が含まれるので、グループのそれより大きくなる。(”The Discipline of Teams”, Harvard Business Review, 1993. Jon R. Katzenbach and Douglas K. Smith)
タテだけでは変化に弱く、成長に乏しいことになりますし、ヨコだけでは事業を推進することそのものができません。タテとヨコはレイヤーとして独立して存在し、融合するというより、各々を盤石にすることが必要です。
タテ(組織)では事業上の課題や仕事そのものの目的、背景、目標を伝え、指示し、必要な資源の投入を行います。そしてヨコ(チーム)はチーム内の繋がりを盤石にし、学習しながら課題を解決することを通して、成長し続けます。個人で戦うのではなくチームで働くことで、仕事の力を高めていきます。
チームで働くことができれば、仕事の課題や問題を個人のものとせずチームの課題としてとらえ、仕事を進めるにあたっての心配事や懸念、問題点をチームで解決できます。またチームの意思としてタテ(組織)に向けてエスカレーションすることもできます。そしてタテはヨコ(チーム)の状況を把握し、チームが仕事を進めるための環境を過不足なく整えることができます。
このようにタテとヨコが上手く機能し合えば、仕事がスムーズに進み成果を上げることができます。また「強いチーム」を育てることができます。
2、チームのありかた
ヨコとしてのチームのあり方を、マネジメントとの関係、リーダーシップ、メンバーシップの3つの観点からお話します。中心にあるのは「相互依存」です。
【根本的な帰属の誤り】 リー・ロス 社会心理学者 スタンフォード大学
発生した事象の状況的要因を認識せず、原因は個人の性質や能力にあるに違いないと過度に思いすぎること。ある人の失敗を、その人が直面している状況ではなく「人」の能力や姿勢と関連付けて解釈し、個人に原因があるとする。「うまく行かない」ということを「人」のせいにすると、対策の検討に至らない。また、他の人を低く評価することで相互依存関係を築かない。
1)マネジメント ヨコで見てタテで解決する
①背景と目的をしっかり伝える
マネジメントはチームに対して、これから行うこと、進める仕事の目的と背景をしっかり伝える必要があります。「何のために行うか」が目的、「なぜ行うか」が背景です。例えば、目的に「何かを高める」とあるとき、背景には「そのことが、弱く、事業成長の障害となっている」ということになります。この二つが正確に伝わっていれば、仕事を進めるにあたっての本質的な問題の発見や、目標を達成する過程で正しい方向に進んでいることの確認を、チームが自律的に行うことができます。ブレない仕事を進めることができるということです。目標値を伝えるだけでは、こういったチームの自律的な働きは期待できません。
②安心して話せる環境をつくる
チームメンバーが安心して議論できる「心理的に安全な環境」をつくることが必要です。チームが仕事についての議論を行う場面では、「人」を評価や考察する場ではなく、「仕事や課題、心配事」を評価、考察、対策する場であることを明確にします。これはチームのコミュニケーションの場では、失敗や問題点、心配事について安心して話せる場であるというルールを定めることでもあります。
③エスカレーションを真摯に受け止める
チームのディスカッションの結果、エスカレーションがあった場合は、これに対応することが必要です。対応するとは、すべて実行するという意味ではなく、「今できることはどこまでで、先々はどのように対応するか」あるいは「全体の俯瞰を述べ、そのエスカレーションは、今現在は実行するタイミングではない」など、チームが納得するまで一緒に議論する事です。もちろん、必要な対策は直ちに実行します。
上記によってマネジメントは、チームと同じスタンスで実態を知り、解決に向かうことになります。チームミーティングにチームメンバーのスタンスで参加して「安全な環境」を作り出し、ミーティングの後にマネジメント(タテ)の立場に戻って課題を解決するということです。
2)リーダーシップ チームリーダーは監督ではなくキャプテン
①自分も含めて相互依存であること
チームリーダーはメンバーの一人であり、自分も含めて相互依存関係であることと、そのために意見をはっきり述べてほしい旨をメンバーに伝えることが必要です。メンバーを慮って仕事を抱え込みパンクするリーダーをよく見かけますが、これはリーダーシップとはまったく逆のことです。プレイヤーとして参加し、自分から相互依存することを明言しないと、メンバーからの相互依存を引き出すことはできません。
②潜在的なチャンスを述べる
仕事の目標達成だけでなく、仕事を通してチームやメンバーにどのような潜在的チャンスがあるかを述べることが必要です。QCDの目標を達成するだけでなく、スキルアップや新しい経験などの成長機会、新しい方法の試みや検証、失敗から得られる良い方法など、チームとして仕事を通して得られることを挙げ、それを獲得していくことを見えるように伝えることです。
③進捗だけでなく手応えを伝える
仕事の達成度について、進捗だけを議論すると、遅れやトラブルなどの後ろ向きな議論が中心となってしまいます。遅れには対策が必要ですが、同時に手応えを伝えることが必要です。例えば、遅れているというより「ここまで来ている、あとはここを突破すればよい」など自信や手応えを伝え、目標に向かって近づいてきていることを共有します。
上記によって、チームメンバーにとってチームが「心理的に安全な環境」であることが伝わります。また、メンバー間で触発することで新しい知恵も出てきます。
3)メンバーシップ 難しい会話から逃げない
①相互依存関係を実行する
メンバー間では、知恵と工数の貸し借りを大いに行うことが必要です。損得ではなく貸し借りです。お互いに、積極的に借りることから始める必要があります。アドバイスをもらったら(知恵を借りたら)、実行結果から得られた発見を伝える(知恵を返す)。手伝ってもらったら、応援をする。仕事は個人で戦うものではなく、チームで働くものです。
②対立から最良を得る
チームメンバーはまず対立を避けないことを旨とします。実りのある対立にするために、異なる価値観や意見に至る個々人の背景を知ることが必要です。「その人がなぜそう考えるか」をその人の能力や姿勢のせいにせず、「どこからその考えに至ったのか」の要因について聞き、知るようにします。そうすることで、相違の融合からチームとしての最良の策が得られます。つまり常に「いいとこどり」が可能になります。
③大小によらず失敗を共有する
チームのミーティングで、うまく行っていることしか話さないような場面をよくみかけます。自分でリカバーできた、ちょっとした失敗やつまづきについては発表しない、話さない人が多いのです。しかし大きな問題のほとんどは、小さな問題が偶然に重なって起きています。通常は、あらかじめ考えられる大きな問題については対策が成されているものです。小さな失敗の起き方とその対策を共有し、未然防止やクイックリーな対策をチームとして行うことは、仕事をスムーズに進める力を得ることと同義です。
まず借りをつくる、対立を避けない、失敗を話す、これらはいずれも「難しい会話」です。これを素直にできることが、チームとしてのまとまりそのものとなります。
「チーム」というものは、当たり前のようにあるようで、まともに機能していない会社が目立ちます。これを読んでくださった皆さんも、身の回りや職場をあらためて観察してみてください。タテとヨコ、マネジメント、リーダーシップ、メンバーシップ。各々が職場で生きていますか。
次回は、チームを強くするための学習について触れたいと思います。
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