(新)組織の活性化

第1回 会社組織のDNA診断

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

Booz・Allen・Hamilton(ブーズ・アレン・ハミルトン)というコンサルティング会社では組織のDNA診断(無料)をしています。この無料診断の回答を分析した結果が面白いので、先ずこの話を紹介したい。
 
30,000人、24業種の様々な規模の企業からの回答が寄せられ、企業階層のあるゆる職務とレベルの意見を反映できたそうです。その回答結果から、組織を「健全な組織」(4タイプ)と「不健全な組織」(4タイプ)に分類しています。
 
「健全な組織」を4種類の組織タイプに分類し、その回答割合は以下の通りです。
 
① レジリエント型(再起力型組織)・・・・・・・・・・・17% 
戦略に一貫性があり、一致団結して取組み、しかも外部市場の変化に極めて柔軟に対応する。
 
② ジャストインタイム型(土壇場型組織)・・・・・・・・10%
変化への備えは十分と言えないが、大局を見失うことなくいざとなれば、予想外の問題でも対応できる。
 
③ 軍隊型(統制型組織)・・・・・・・・・・・・・・・・・4% 
熱心な経営陣が少数で企業全体を支配している。優れた執行能力と高効率の経営モデルで成功している。
 
④ 特定不可型(分類不能組織)・・・・・・・・・・・・・15%
どの組織タイプにも分類できないが、健全な組織である。
 
「不健全な組織」を4種類の組織タイプに分類し、その回答割合は以下の通りです。
 
① パッシブ・アグレッシブ型(受動攻撃型)・・・・・・・27%
一見したところ職場は和気藹々とした雰囲気で、対立も無く意見は一致しているように見える。しかし実行段階になると、合意した計画でもなかなか進まない。
 
② 過剰成長型(肥大化組織)・・・・・・・・・・・・・・10%
急速に成長・肥大化したために複雑化し過ぎて、少数の経営陣では運営できない。それにもかかわらず、意思決定権の民主的委譲が出来ない。
 
③ 管理過剰型(管理肥大組織)・・・・・・・・・・・・・・9%
管理層が多すぎるために分析に収支して行動に至らない「分析麻痺」状態。意思決定を社内政治に利用する傾向がある。
 
④ フィット・アンド・スタート型(才気分散組織)・・・・・8%
才気煥発でやる気に溢れた社員が揃っているが、同じ目標に団結して取組むことが出来ない。
 
この調査結果によると、回答した半分以上(54%)の人が自分の組織を「不健全」だと思っています。また、上層管理者は中層以下の管理者よりも楽観的に評価する傾向があります。
 
この調査で最も多かった受動攻撃型組織の特徴について、ハーバード・ビジネス・レビューで解説しています。その解説には思い当たることが多いので、以下に紹介します。
 
(1)受動攻撃型に陥るパターン
大企業に成長したが、大組織の経営ノウハウがないので、その場しのぎの意思決 定やイベントを繰り返しているうちに次の状態に陥る。
 
① 複雑な組織構造の大企業に多く見られる組織で、だれが権限を持っているのか不明確で、権限が分散しかつ委譲が進まない。権限者が院政を敷く場合がある。
 
② 目標達成への責任意識が厳しくなくなり、理由があれば目標達成しなくても良いという暗黙の了解が出来上がる。
 
③ 公式の場では賛成するが、それぞれの現場では無視して協力しない。(改革のリーダーに対して「表面は従順、実態は無視」の陰湿な行動を公然ととる。)
 
(2)不健全な組織(受動攻撃型組織が代表例)に共通するミスマッチ
 
① 動機付け要因の効果が弱い。
 
  • 業績が正当に評価されずに地位や肩書等で決まり、貢献と報酬が一致しない。
  • 市場・顧客への対応よりも社内の特権や序列が重視される。
  • 企業規模が大きく成り過ぎて、社員が市場・顧客の圧力に鈍感になっている。
  • 株価や業績数値だけがプレッシャーになり、市場・顧客現場から距離感がある。
②意思決定権の所在が曖昧である。
  • 自分が責任を負うべき意思決定と行動について理解していない。
  • 自分の役割が不明確で、言い訳がし易い環境になっている。
  • 一旦決まったことでも、横槍が入ると覆る。
③情報処理に問題がある。
  • 社員の関心は市場・顧客よりも、社内の出来事に向いている。
  • 本社の会議や上司との付合いに熱心で、しきたりや型にはまった行動をする。
  • 本当に価値ある情報を他の社員に教えるのを嫌う。
④組織構造に問題がある。
  • 社内組織図で自分の相対位置を知って行動する。
  • 「部下が何人」、「上司は有望株か」、「社長からの順位」等が最大の関心ごと。
受動攻撃型組織の健全化への回復は一筋縄ではいかず、かなり困難を伴う。改革への抵抗勢力として組織が結束するからである。それも、「表面従順、実態無視」という陰湿な抵抗手法を身につけているから始末が悪い。既に何回も治療に失敗しているので、多くの社員はふてぶてしくなっており、病状を見極めるだけでも一苦労である。深刻な危機に気付いたときには手遅れになる。
 
ハーバード・ビジネス・レビューでは、受動攻撃型組織の健全化の手法について、次のように述べています。
 
(1) 新しい血を入れる
外部からトップが来たという事実だけで、全社員に対して自組織は自力で回復不能になったというメッセージを発信することができる。そこで、外部からのトップに「新しい価値基準」を決定してもらう。新しいトップは既存の経営陣を使い分けて、有能な経営陣に絞り込んでいく。
 
(2) 全てを変える
経営陣や上位管理者層を一新し、人事評価システム、インセンティブ・システム、意思決定システムなどの仕組みも、「新しい価値基準」に準じて一新する。意思決定権の所在については、本来持つべき人に明確化して渡す。
 
現在、世の中にこういう「受動攻撃型組織」の企業が1/4以上(27%)も存続しているとは驚きです。と同時に、「いかに組織の活性化が難問であるか」を示しています。

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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