(新)組織の活性化

第2回 学習する組織の課題

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

前回は組織に所属している人からのアンケート回答結果から、自組織のタイプを7種類に分類をした。「受動攻撃型組織」が1/4強を占め、自組織を不健全と認識している人が半数以上いることが分かった。半数以上の企業が、組織の健全化(=活性化)を必要としている事が判明した。今回は、組織の活性化の手法として数年前に話題になった「学習する組織」について述べます。
 
「学習する組織」実現に向けて、多くの企業の経営幹部が多大な時間と金および熱意を企業変革プログラムに対して投入したが、抜本的な改革に成功した企業は少なかったようである。企業の現場では、企業の社員たちが組織に深く根付いた戦略やプロセスに、敢えて異議を申し立てたり、既存の思考や行動を根本的に変えることは稀である。たいていの人がうわべだけを取り繕って、従来通りにそのまま続ける。前回に解説した受動攻撃型組織の抵抗を受けるようである。
 
組織心理学の世界的に著名なエドガ-・H・シャイン(MIT名誉教授)は、「学習は楽しい」という一般的通念を退け、再学習に伴う徹底的な不安感に着目して組織学習の問題点を明らかにしています。
 
(1)不安感
 人を学習に駆り立てるには、心の奥底に不安感が必要である。自分が生きていくためには変わらなければならないという恐ろしい現実認識からくる不安感(生存不安)があります。一方、学習には、新しいことを試す時に、難しすぎる、他人に変に見られる、これまで馴れた習慣と決別しなければならないといった恐怖を感じて抵抗する不安感(学習不安)があります。生存不安が学習不安より大きい時に、初めて学習が可能になります。
 しかし、長い歴史を重ねた大企業や平均的な業績の企業では、社員は大規模なリストラ等が無い限り、生存不安は学習不安より大きくなりません。現状に安定感を感じている社員を、学習に駆り立てるほどの大きな生存不安を感じさせるのは非常に難しいことです。不安感以外の動機付けで、学習する社員はどんな企業にも存在しますが、そういう社員はせいぜい20%位の割合で、とても学習する組織とは言えません。
 解雇や報酬をちらつかせて生存不安を増大するか、既得知識を捨てて新たに学習することで安全な環境を作り出して学習不安を減らすのかいずれか必要です。
問題は、学習に対して心理的に安心させることが、概して難しいということです。生産性を向上させたい場合などは、特にそうです。人員削減が敢行されたり、大規模組織改革で既得権を失うような恐怖を感じる場合、心理的な安心感は急速に失われます。こういう場合、大抵の企業は生存不安を増大させる方法を好みます。その方が簡単だからです。ここが完全に釦を掛け違えている点です。現代の経営慣行がアメよりもムチを重視する限り、企業は社員に学習への強い抵抗を植え付けることになります。
  組織ではマネジャーが部下を脅して学習させることが殆どです。社員は傍観者的態度を身に付けしまいます。これが受動攻撃型組織の典型です。変革を期待されたマネジャーが、変革に失敗するのを待っているのです。
 もし、リーダーが本当に社員に新しいことを学習させたいなら、経済的環境について社員を教育し、自らのメッセージの信頼性を示す必要があります。特に、効果が顕著に表れるのは、経営幹部の真摯なメッセージおよび経営幹部自らが学習者になることです。リーダーが自ら弱さと曖昧さを認識しない限り、転換的(改革的)学習は実現しません。リーダーが範を垂れ、他の人々にとって心理的に安心な環境を整備して、初めて彼らは真のリーダーとなれるのです。
 
(2)強制的説得
 学習においては、企業文化が大きく関わってきます。企業組織が長年の成功や失敗から学んできたことに関する概念が織り込まれています。企業文化変革を語る時は、明らかに転換的学習を指しています。最近の組織変革の流行は、人々が本当に信頼しあい、率直になれる環境つくりや、社員に活性されたフラットな組織づくり、あるいは自立的なチームの創出などです。これほどの大規模な変革には、人々が長年の思い込みを捨て、根本的新しい概念を採用する覚悟が必要になります。この種の忘却と再学習のプロセスは多くの苦痛を伴ううえに、遅々として進まないものです。
しかし、企業文化を変革することは可能です。例えば、新たなカリスマ的リーダーが登場し、企業文化を急変するようなメッセージをもたらすこともあります。大規模な企業文化改革には、通常長い時間がかかります。プロクター&ギャンブル社の場合、組織の全レベルで新たなアイデンティと人間関係を再構築するのに25年かかりました。実際には、望まれる概念を身に付けた人々を一括採用するか、苦痛を伴う強制的説得の期間を経るしかありません。
  強制的説得とは、一旦確立した仕事や人生に対する姿勢(自分の価値観や信条など)を強制的に捨てさせることです。誰かがやってきて自分の考え方を変えようとしたら、その人物に自分を引き留める能力が無い限り、あなたはそこを去ろうとするでしょう。
 集団学習のプロセスに強制が介入するのはこの時です。組織は、学ぶべきことを学習できるまで会社に留まるように説得する様々な手段を持っています。やや暴力的に外部圧力としてアメとムチを使う方法や、外部圧力を感じさせない洗脳という方法があります。
(3)個人学習と組織学習
 「学習する組織」という言葉は、どの企業にも当てはまる便利なラベルになりましたが、実際は学習する組織について依然未知なことが多いのです。個人や小さなチームの学習を改善する方法はかなりわかってきましたが、体系的なアプローチで組織文化に介入して、組織全体に転換的学習を浸透させる術は未解決のままです。
 たとえば、大半の人が同じ内容について学習しているからといって、組織全体が学習しているとはいえないことは既に判明しています。実際よくあるのは、各人がそれぞれの教訓からてんでばらばらの方向を指してしまい、これら分散した方向を組織として、無理やり調整しなければならないケースがあります。未調整の学習の典型がディジタル社です。同社は社員に創造性を発揮させて成功を収めましたが、3つの異なるコンピュータを別々に開発し続けたために、全てが失敗に終わりました。転換的学習には、一人が学習を深める以上の何かが必要となります。
 つまり最大の経営課題は、どうすれば組織として学習できるのか、ここに何らかのモデルを見出すことなのです。
 
以上が、 エドガ-・H・シャイン(MIT名誉教授)が指摘する「学習する組織」実現に伴う問題点です。
 
企業全体とか大組織とかの場合はとてつもない難問なようですが、小さなチームであれば、組織活性化の方法がありそうです。

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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