(新)組織の活性化

第6回 分散型リーダーシップ

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

 前回までは、組織に着目して活性化について紹介してきましたが、組織を活性化するためには何らかのリーダーシップが必要なので、今回以降は「リーダーシップ」について述べることにします。従来の「ピラミッド型組織のリーダーシップ」については多くの書物が出ているので、ここでは、「ピラミッド型以外のリーダーシップ」について述べてみたいと思います。今回は「分散型リーダーシップ」について述べます。
 先ず、リーダーシップを幾つかの能力に分解し、分解した各能力を複数人が協力して発揮する方法について考えてみます。

 

目次
(1)リーダーシップに必要な4つの能力
(2)企業と従業員が置かれている状況を認識する能力(状況認識力)
(3)社内外で人間関係を形成する能力(人間関係力)
(4)説得力あふれる将来像を描く能力(ビジョン力)
(5)将来像を実現するための新しい方法を見出す能力(創意工夫力)
(6)リーダーシップに必要な4つの能力のセルフチェック(弱点の認識)

(1)リーダーシップに必要な4つの能力

  1. 企業と従業員が置かれている状況を理解する能力
  2. 社内外で人間関係を形成する能力
  3. 説得力あふれる将来像を描く能力
  4. 将来像を実現するための新しい方法を見出す能力
 
上記の能力をバランス良く備えている人物は稀には存在するだろうが、殆どの場合は思い当たらないであろう。多くの場合は、上記の一部の能力を備えた人物がリーダーと選任されることになる。ここで、このリーダーが不完全なリーダーか無能なリーダーのどちらかになっていく。不完全なリーダーは、自分の欠点と弱点を正しく理解し、適切な判断に基づき他人の力を借りて、自分の強みを活かしておのれの欠点を埋め合わせる。 こういう謙虚な気持ちを持たないリーダーは無能なリーダーになっていく。
それでも自分の最も弱点とする能力を改善しなければならない場合もある。以下に各能力を改善する方法について述べる。

 

(2)企業と従業員が置かれている状況を認識する能力(状況認識力)

  1. 顧客、サプライヤー、競合他社、従業員、投資家等の複数からデータを収集する。
  2. 状況認識の作業に他者の参加を仰ぐ。自分の状況認識を伝え、これを異なる見解の持ち主と一緒に考える。
  3. 得られた結論を検証するために初期段階の所見に照らして再確認する。様々な見解を整理する新しい方法や多種多様な選択肢を理解するための方法を探す。
  4. 既存の骨組を単純に当てはめることは避け、新たな可能性を受入れる。善と悪、加害者と被害者、営業と技術者という紋切り型で結論付けないようにする。
 この能力に優れたリーダーは、自分達が置かれた複雑な様相を素早く把握し、他の人達には単純明快な言葉で説明できる。

 

(3)社内外で人間関係を形成する能力(人間関係力)

  1. 時間をかけて相手の見解を理解することに努める。オープンな姿勢で、自分の判断を交えることなく、相手の言葉に耳を傾ける。
  2. 相手に発言を促す。何を重要視しているのか、今起こっていることをどのように見ているのか、それは何故かについて尋ねる。
  3. 自分の見解を述べる前に、相手がどのように反応するのか、どのように説明するのがいちばん望ましいかについて考えてみる。
  4. 自分の見解を述べる時は、結論とそこに至った過程について説明する。
  5. 自分の人脈について評価する。アドバイスを仰ぐ時や提示する時、難問に取組んだ時、助けを求める時などに、自分は他人とどのように関っているか自問自答する。
 人間関係を築くには、「問いかける」、「主張する」、「人脈を作る」が重要である。
 

(4)説得力あふれる将来像を描く能力(ビジョン力)

  1. 仕事、家庭、コミュニティの生活など、いろいろな場面でビジョンを考えてみる。「何を生み出したいのか」と自問自答してみる。
  2. 自分の大切なものについてビジョンを考えてみる。自分の情熱が他人にも刺激となるのか。他人がわくわくすることや大切に考えていることについて話を聞く。
  3. 他人が自分と同じ情熱を抱くことを期待しない。そのビジョンが何故大切なのか、それによって何が達成できるかについて説明できるようにしておく。
  4. 複雑な状況を上手く伝えるには、具体的な行動に繋がる比喩や物語を用いる。
  5. ビジョンを実現する方法が分からなくても、ビジョンが具体的で魅力的であれば、他人が実現する方法を考えてくれるだろう。
人々の明るい未来に向かって自分達に何ができるのかを語る。
 

(5)将来像を実現するための新しい方法を見出す能力(創意工夫力)

  1. これまでの方法がベストだとは考えない。
  2. 新しい仕事や改革の必要性に直面した時は、創造的な方法で取組むように促す。
  3. 新しい組織を作る時は、様々な方法を試してみる。新しい方法でグループ分けしたり、纏めたりしてみる。
  4. 自分が置かれている環境を理解しようとする時は、「他にどのような選択肢があり得るのか」と自問自答してみる。
 目の前のビジョンを現実に結びつけるには、生命を吹き込むプロセスに工夫が必要である。(抽象的なアイディアを実践に進めるには、仮説・実践・検証が要る)

 

(6)リーダーシップに必要な4つの能力のセルフチェック(弱点の認識)

状況認識力が弱いことを示す状況
  • 自分はだいたいいつも正しいが、他人は間違っていると感じる。
  • 企業や業界の変化が、自分にとって不意打ちであることが多い。
  • 変化が起こった時、「間違っている」と感じる事が多い。
 
人間関係力が弱いことを示す状況
  • プロジェクトが失敗すると他人を非難する。
  • 仕事で人と話す時、不快感を催したり、イライラしたり、論争になったりする。
  • 一緒に働く仲間達に信頼できない人が多いと感じる。
 
ビジョン力が弱いことを示す状況
  • 仕事では、次々にピンチになり、その対応に追われてばかりのような気がする。
  • 大きな目標が無く、場当たり的に進んでいるような気がする。
  • 家族や友人に自分の仕事のことを熱く語った頃が思い出せない。
 
創意工夫力が弱いことを示す状況
  • 会社のビジョンが分かりにくく感じる。
  • 会社の理念と実際の組織との間にギャップがあって、障害を起こしているようだ。
  • 何か変化が起こっても、やがていつもの状態に戻ってしまうようだ。
 多くのリーダーは通常、4つの能力のうち、1つか2つの能力が優れている場合が多い。自分の弱点を(2)~(5)のように改善する努力も必要だが、自分の能力を診断し、その弱点を補ってくれる他者を探し出し、その協力を仰ぐことの方がさらに大事である。
 どのように他者と協調して、総合的に必要なリーダーシップを発揮する方法論には未だ定説がないのが現状である。まずは、自分に欠けているものを補ってくれる仲間を探すことが先決である。

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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