(新)組織の活性化

第7回 自分らしさのリーダーシップ

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

 この半世紀、リーダーシップを研究者達は「これが一流のリーダーの型である」と言えるスタイル・特性・資質を探ってきたが、「理想のリーダー像」を描き出した研究は1つも無かった。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人のうち、どのタイプが理想のリーダーなのか人によって異なるのと同じで、「絶対的なリーダー像」は存在しないようである。
 ある研究機関が、125人の定評あるリーダーにインタビューをして作成した調査記録(約3,000ページ)を分析した結果、リーダーシップに関しては下記のように分析された。
 

リーダーとして成功するような共通の特徴、特性、スキル、スタイルは何ひとつ見出せなかった。これは驚くべき結果であった。

リーダーとしての特性や資質はけっして生来的なものではなく、何か背中を押してくれるきっかけを待つ必要も無く、あまつさえ組織のトップに立つ必要もない。誰でもリーダーとしての可能性を今すぐにでも発見できるということだった。

リーダーシップは、その人の人生経験に大きく影響される。現実世界での経験の中でリーダーシップは試され、自らを振り返っては「自分の本質とは何か」について理解しようと努めてきた、そうする過程でリーダーシップの目的を悟り、自分らしくあることがリーダーとしての能力を高めることを知り、学んできた。

ビジネスであれ、政治であれ、ボランティアであれ、誰もがリーダーの素質をもっている。自分を良く知り、リーダーシップを発揮することで周りの人達の役に立てる場所を見つけられるかどうかです。自らの内にあるリーダーシップを見つけるには、自己成長の努力が重要である。音楽家やアストリートと同様に、生涯をかけて自らの可能性を追求することがリーダーシップを高めていく。

自分の信じる価値観や原則を実践し、時には自分にとって大きなリスクであることもいとわない。そして行動の動機が価値観と報酬のどちらかに偏ることのないように、慎重にバランスを図っている。また、強力な支援者たちを身近に置き、堅実で一貫性のある生活を送っている。

 
 「自分らしさを貫くこと」がリーダーシップとしての能力を発揮し、高める要点だと纏めている。ここで、自分らしさを貫くとは、どういうことなのか。ただ単に自分の好き勝手に行動することではないはずである。もっと深遠な意味があるはずである。リーダーシップの研究者は、定評あるリーダー達は自分の歴史(自分史)を次のように振り返り学ぶことにより、「自分らしさを貫く」ことが出来るようになったと分析している。
 

自分史の中で肝心なのは、人生に起こった事実ではなく、それを自分がどのように意味付けて語るかである。人生における重要な出来事、人との触れ合いの記憶を何度も繰り返し再生し、その人生に置ける意味を理解する。そして、社会における自分らしい居場所を探すのである。

多くのリーダーは、「苦労した経験から、自分の動機が生起した」という。自分を被害者として考えることなく、人間成長を促すような経験をきっかけに、自分の人生に何らかの意味付けをして、様々な出来事を見つめ直し、時には困難に立ち向かい、人々の先頭に立つというエネルギーを手に入れるのである。

世の中の人々は、わかりやすく目に見える成功を求める。例えば、収入、名声、権力、地位などである。このような成功はある程度、努力によって実現するだろうが、まず長続きはしない。年齢を重ねるにつれて、「自分の人生には何かが欠けている」と感じるようになり、自分が本当になりたい人間になれていないことに気付く。本当の自分を知るには、自らの過去をのぞき込み、つぶさに調べる勇気が要求される。この作業を経験しているリーダーはより人間らしくなり、自分の弱さを認められるようになる。

リーダーシップの原動力は自分を変えるような経験である。本当の自分を知ったうえで、本当になりたい人間に自分を変えることが出来た時に、リーダーシップの奥義を理解できるようである。報酬・名声・権力・地位等の周囲の認知を得るという外発的動機ではなく、自分の人生の意味(自分の成長、社会の大義のために働く等)を掴むという内発的動機を理解することが極めて重要と言える。

 

 自分らしさを貫くリーダーは、格別の満足感を味わえる。個人としてどれほど大きなことをやってのけても、集団を率いて価値ある目標を達成する喜びには及ばない。全員でゴールに到達できれば、それまであった痛みも苦しみもすぐに消えてしまうものだ。そして、他者を力づけて世界を良くしたという深い満足感を味わえる。これこそが本者のリーダーシップの目的であり、成果である。
 
 以下に、自分らしさを貫くリーダーシップを体験する基本と、本物の自分らしいリーダーになるまでの成長過程について考えていただくための自問自答項目を挙げる。
 

①これまでのこれまでの人生を振り返って、自分が最も影響を受けたのは、どのような人物、あるいはどのような経験か。

②自己認識力を高めるために、どのようなことを心がけているか。本当の自分はどのような人間か。本当の自分だと思えるのはどのような瞬間か。

③自分の奥底にある価値観はいかなるものか。それは何に起因するのか。子供の頃に比べて価値観は大きく変わっているか。その価値観がどのような行動の結びついているか。

④自分を動かす外発的な動機は何か。あるいは外発的な動機は何か。人生において外発的な動機と内発的な動機をどのようにバランスさせているか。

⑤周囲にどのような応援団があるか。自分らしさを貫くリーダーシップを実現するために、応援団はどのように役に立っているか。視野を広げるためにチームの多様性を高めるにはどうすればよいか。

⑥自分の生活態度は一貫しているか。生活のあらゆる場面、例えば職場で、職場以外、家族の前、コミュニティの中で、いつも同じ人間でいられるか。そうでないとすれば何が障害となっているか。

⑦自分らしくあることは、人生においてどういう意味があるのか。自分自身であることで、リーダーとしての能力が高まっているのか。自分らしさを貫くリーダーであることで、何かを犠牲にしたことはあるのか。その価値はあったか。

⑧自分らしさを大切にしたリーダーとして成長していくために、今日、明日、そして今後1年の間に何ができるのか。

 
 リーダーは、最後には数字として結果を出すことを求められる。短期的な数字ならば、本物のリーダーでなくても、運が良ければ可能かも知れない。しかし、景気の波に関係なく長期的に好業績を続けられるのは、自分を貫くリーダーだけである。

連載一覧

コメント

筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

バックナンバー