(新)組織の活性化

第10回 意図した失敗のすすめ

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

 組織の活性化についての話も今回で最終回を迎える。第一回から第五回までは、組織の活性化の方法について論じ、第六回から第九回までは、組織の活性化と深く関連しているリーダーシップについて論じてきた。どちらの話題にしても、決定的な手法や、方法論は未だ存在しないようである。
 
 ここでは理論や一般化された方法論ではなく、経験から学習することについて述べたい。 1つは「意図した失敗」からの学習であり、もう1つは、経験を経なければ学習できない 能力の身に付けかたである。多分、組織の活性化とか、リーダーシップは、この領域の能 力に属すると考えられるので、経験による学習を実践して何らかの手掛かりを見つけてい ただきたいと思う。
 
1.「意図した失敗」の薦め
 「意図した失敗」ではなく実験ならば、多くのマネジャーが必要だと思っている。しか し実験とは通常、自分たちが有望と考える仮定(仮説)を証明するためのものである。実 験と「意図した失敗」は別物であり、後者は、自分たちの仮定によると失敗するはずの試 みであり、コストをかける価値の無い実験である。したがって、意図した失敗の期待値は、 常識的に考えればマイナスである。ところがこれが予想外の成功を収めることがある。成 功する場合、少なくとも一つ以上の前提が覆され、その発見は成功につながる学習となる。 常識的な仮定に間違いがある場合、その原因を調べても、なかなか見つからない。このよ うな場合、失敗を犯してしまったほうが原因の究明が手っ取り早い。アメリカ国防省の国 防高等研究開発計画(DARPA)では、ロボット車両を開発する際に、この手法を採用 した。本来ならば、その開発に際して世界中から著名な専門家や有力企業を集めることが 常道にもかかわらず、アマチュア(大学生等)を集めて敢えて失敗させた。しかし、DA RPAはこの失敗を通じて13の設計の手法に関する欠点を発見し、短期間で正しい設計 手法に到達することができた。失敗率を高めることによって短期間で成功に近づいたので あった。
意図した失敗が成功への近道となる可能性が高いのは、以下のような場合である。
 

同じような意思決定が繰り返される場合

環境が大きく変わった場合

問題が複雑で、答えが多様な場合

あまり精通していない問題に取り組む場合

 
2.実践に裏付けられた「リーダーシップの旅」への出発
 人生には経験を経なければ学べないことがある。どのようなタイプの経験が有益かとか、経営者として見事なリーダーシップを発揮した人たちはどのような経験をくぐってきたかなどは、長い間体系的には知られないままだった。幸いにも最近は、リーダーシップ研究に、「一皮むける経験」という視点が生まれ、「どのようにリーダーシップを身につけるのか」がリーダーシップ研究の中核に据えられるようになった。リーダーは、実践に裏付けられた「リーダーシップの旅」を繰り返し、そこで自分の言葉で表現されたリーダーシップ論を確立してくことが望まれるようになった。書籍から学ぶ理論は、自分自身の持ち味と自分に置かれた状況に照らしながら、自分の持論を磨くための材料の1つくらいと思うべきだろう。リーダーシップは知るためではなく、実践するために学ぶものである。
 そこでまず、リーダーシップ研究の歴史をざっと眺めてみよう。第二次世界大戦までは、リーダーシップはもっぱら生来の「個人的資質」と思われていた。現在でもこれを全く無視するわけにはいかないが、生来の「個人的資質」だけではリーダーシップを発揮できる能力を有する人を判断できない。
 次に、経験を通じてリーダーに成長する行動アプローチに着目した。リーダーの行動を、課題関連の行動(仕事上の指示を出すなど)と人間関係の行動(部下の相談に乗るなど)に注目した。そして、リーダーが置かれた状況(組織集団のメンタル状況、時間的タイミング)に適応するリーダーシップのタイプに着目するようになった。(例えば、非常時と平時ではリーダーシップのタイプは異なる)
 我々が今知るべきは、変化し続ける不安定な環境に適合したリーダーシップである。それゆえ1980年以降、変革型のリーダーシップが注目されている。
 そこで、変革のリーダーシップを育む幾つかの扉(ポイント)を開ける旅をしよう。
 
1.実践的リーダーシップの実践
上からの命令ではなく、自らのシナリオを実現させるために、仕組みを通じて部下を動かすのではなく、上司も含めて自らの権限や影響が公式に及ばない人々を動かす。
 
2.変革は繰り返される
ゆでガエル現象」が最大の危機であることを認識し、危機感という緊張が人を動かし、危機感を脱する希望への道筋が人を動かす。(緊張と希望が動機付けに重要である)
 
3.フォロワーの自立性を導く
フォロワー(その集団を含む)がリーダーの示す方向に従うように影響力を及ぼし、フォロワーが自分の問題に自主的に取り組むように影響力を及ぼす。
 
4.変革型リーダーの経験と持論
卓越したリーダーの自伝を読んで注意深くメモを取りつつ、繰り返される言葉を抜き出して整理すれば、ある程度持論を抽出できる。
 
5.苦難が人間を強くする
偉大なリーダーも心の奥ではいつも、悲しみと喜び、蹉跌と成功、不安と夢、恐怖と希望が拮抗しつつ同居していて、苦難を乗り切るたびに人間を強くしていく。
 
6.「経験の理論」を持つ
リーダーシップを体得するには、自分なりのリーダーシップ論を自分の言葉で練り上ることが近道だ。(自己流に偏りすぎないように、かつ理論を踏まえて謙虚に)
 
7.リーダーシップの体系的育成
リーダーは、悲惨な経験、ゼロからの立ち上げ、修羅場をくぐりぬけることで自信が芽生える。また、経験を通じて、諦めない姿勢、逃げない姿勢を身につけ、さらには反対者を巻き込む大きな心が重要だ。
 
8.高い倫理観を持て
旅の途中で頓挫することも、リーダーシップの暗黒面に気づくこともあるかもしれないが、自分の経験の謙虚な内省と高い倫理観を持って、進んでいくことが大切である。
 
 最後に、読者の皆さん。是非とも、自ら実践した経験から得た自らの言葉で、組織の活 性化について、語っていただきたい

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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