富士通メインフレームの本質を見る~CPUリプレースの考え方

第2回 CPUダウングレードの考え方

概要

御社ではメインフレームの性能評価や性能見積りをして機種選定をしていますか? 「富士通メインフレームの本質を見る」の第2弾として「CPUリプレースの考え方」について解説します。第1回は移行パス(見積り不要の機種選定方法)が生まれた背景とその内容について考えます。

目次
2.1 メーカのスタンスを考える
2.2 お客様のリスク
2.3 事例~性能予測

2.1 メーカのスタンスを考える

 筆者がメーカに在職中の1997年頃、CPUのダウングレードサービスを企画したところ一蹴されたことを覚えています。メインフレームの機種選定は移行パスに従うことが原理原則であり(前回参照)、ダウングレードの方法論を研究することすらあり得ないのです。  もしも御社の担当営業・SEがCPUのダウングレード提案をされているなら、「メーカ内で大騒ぎをしてそれなりの権限を持った人を巻き込んでいる」か「担当者の独断」かのいずれかでしょう。両者の違いはトラブルがあったときの責任の所在くらいで、技術面については本質的な大差はありません。なぜなら、ダウングレードを断念させる理由を見つけることが主たる目的だからです。  担当者の独断といっても、調子のいい営業からお客様のシステムを熟知しているSEまで様々です。後者のSEは自らの豊富な経験をベースにしており、成功率は9割に達すると思います。残念なことは、このようなスーパSEとお客様が出会う確率が1割に満たないという現実です。  メーカにCPUダウングレードを依頼し、成功に導くことはなかなかやっかいです。

 

2.2 お客様のリスク

CPUのダウングレードには一例として次のようなリスクがあります。 CPU能力の低下により、処理時間が直接的または間接的に遅くなる リソースの負荷が高くなり新たなトラブルを誘発する 様々なしがらみや利害関係   a)を前回の問1で考えます。CPU性能10、CPU使用率30%のシステムをCPU性能5に単純移行したら処理時間はどうなるでしょうか。図2に示す性能モデルだと、①+②+③=4.4→8(1.8倍)になることがわかります。(③CPU待ち時間は待ち行列で算出)

図2 CPUグレードダウンの性能モデル
  遅くしたくない処理があれば何らかの対応をしなければなりません。遅くなることを受け入れることもリスクへの対応です。
  b)は④’の未然防止であり、現行システムで適切な性能評価を行えばほとんどは見えてきます。性能品質の悪化もその要因の一つであり、事前に手を打つ必要があります。
  結局c)で断念するケースも耳にします。様々なリスクをお客様自身でコントロールできるなら、CPUのダウングレードは成功に導かれるでしょう。

 

2.3 事例~性能予測

 メインフレームでのCPUダウングレードの性能予測手法は既に確立しています。その一部を事例使って紹介します。

性能モデルの作成

  性能データを分析し、システムの性能特性に合わせて図2のような性能モデルを数パターン作成します。例えば、CPUバウンドの処理、I/Oバウンドの処理、バッチ処理、オンライン処理などがあります。弊社ではCPU/IO頻度分析(バッチ処理の性能評価と改善事例から第4回)を基準に考えています。

現行システムでの検証

  多重度を上げたときの処理時間の延びやCPU使用率をシミュレーションし、実際のデータを使って検証します。2つの性能モデルを使ったシミュレーション結果を図3に示します。

図3 現行システムでのシミュレーション

 この事例では、実際の稼動状況から1~3多重が平常時モデル(A-1、A-2)、4多重以上がI/O過負荷モデル(B-1、B-2)になることがわかりました。5多重以上では双方CPUネックになるため同じ処理時間となります。

性能予測(シミュレーション)

  PRIMEFORCE80xxをPRIMEFORCE30yyに単純移行したときの性能予測結果を図4に示します。

バッチ処理は1.1~1.5倍になり、オンライン処理は1.1倍になる。

最新のDISK(ETERNUS)を導入すると、バッチ処理は0.9~1.5倍、オンライン処理は0.9倍になる。※今よりも速くなることがある。

図4 性能モデルを使った性能予測(シミュレーション)結果

予測の誤差について

  前回説明した通り、同等性能のCPUに単純移行しても処理時間には2割程度の増減が発生します。図4はあくまで平均値であり、予測の精度を上げるために安全係数も入れていません。リスクを想定し、移行後に性能遅延等が発生してもチューニングで改善できる目処をつけておくことが重要となります。

所感

メーカは本来やるべき性能評価・見積もり・予測を手抜きせず、お客様のために 実施することが必要です。何もせず、不安を煽り、オーバスペックのCPUを導入 する悪しき慣習をブレークスルーするのが私の使命だと考えています。

 

以 上

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筆者紹介

有賀 光浩(ありが みつひろ)

株式会社アイビスインターナショナル 代表取締役

1963年生まれ。1985年富士通株式会社入社。1992年~2003年まで社内共通技術部門で国内外のメインフレームの性能コンサルティングを実施、担当したシステム数は1,000を超える。2000年からは大規模SIプロジェクトへの品質コンサルティング部門も立ち上げた。

2004年に株式会社アイビスインターナショナルを設立。富士通メインフレームの性能コンサルティングとIT統制コンサルティングを行っている。

技術情報はhttp://www.ibisinc.co.jp/で公開中。富士通やSI’erからのアクセスが多い。

当サイトには、同名シリーズ「富士通メインフレームの本質を見る~IT全般統制の考え方」を3回、「富士通メインフレームの本質を見る~バッチ処理の性能評価と改善事例から」を6回、「富士通メインフレームの本質を見る~CPUリプレースの考え方」を3回、「富士通メインフレームの本質を見る~性能改善の現場」を7回、「富士通メインフレームの本質を見る~2009年度の最新トッピックス」を3回、「富士通メインフレームの本質を見る~2008年度の最新トピックス」を2回にわたり掲載。

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