株式会社ビーエスピーソリューションズ
「IT部門の環境管理」検討グループ 荷軽部 学
概要
本連載では、IT部門の視点で「環境問題」を考えると題し、
① 環境問題の背景
② 環境問題とグリーンIT概要
③ グリーンITの取り組み事例
④ IT部門としての環境問題解決の重要ポイント
⑤ 設備環境管理の推進
を順次掲載する。
前回までは、世界を取り巻く地球温暖化による環境問題についてと、法改正による企業の温暖化対策への新たな取り組みの必要性、グリーンITの定義について述べてきた。今回は実際に各企業でどのようにグリーンITの取り組みを行なっているか、実例を挙げてみたいと思う。
グリーンIT事例
・「IT製品を販売する立場」の取り組み
事務・印刷機器を製造販売しているA社では、「環境負荷が地球の再生能力の範囲内に留められた、持続可能な社会の実現」を目標とし、環境保全と利益創出の同時実現を目指しグループ企業全体で活動を展開している。
主要な事業分野を対象に、製品における含有化学物質削減、省エネ技術の開発による電力消費量削減などを行い、2005年度には環境負荷20%削減を達成した。しかし、2006年度の環境負荷は、前年度比で2.7%増加してしまった。この増加の理由は、機器の販売増による資源投入量増加と、ユーザが製品使用時に消費する紙の増加によるものである。年率8%以上の事業拡大を前提にしているため、2007年度の環境負荷削減目標は、今後より一層の削減努力が必要となる。具体的には、再生複写機販売など資源循環の促進や資源投入、紙消費量削減のために環境技術開発を強化していく、としている、こういった「PDCA (Plan – Do – Check – Action)の取り組みがきわめて明快な点、特にCO2排出削減について、グループごとに分けて目標設定している点」などが高く評価され、第11回環境報告書賞・サステナビリティ報告書賞の審査結果で、環境報告書賞<最優秀賞>を受賞している。
図表1. グリーンITの二つのアプローチ
・「IT製品を販売する立場」の取り組み
情報システムの開発において、コンサルティングから設計、開発、運用・保守・管理までを一括請負する情報通信企業B社では、自社データセンタ事業における環境対策に力を入れている。サーバの集積地であるデータセンタにおいて消費される電力が、IT利用に伴う消費電力の中でも特に大きな割合を占めている点と、コスト削減を望むユーザの要望に応えるために、以前からデータセンタでの環境対策を行ってきた。ISO14001の取得や、NAS電池(電力貯蔵用電池)を採用した夜間電力の有効活用などだ。そしてこのB社が2008年に新たに開設した都心型データセンタでは更なる対策が行われている。
一般のデータセンタでは。IT機器そのものが消費する電力は全体の3割程度である。それ以外の割合のほとんどを占めるのが空調等、動力に用いられる電力であると言われている。B社の新しいデータセンタでは、最新の空調装置を導入することで空調機自体の消費電力を減らし、機器を設置するレイアウトの工夫や排熱遮断カーテンの利用により、冷気と排熱の混同による空調のエネルギーロスを最小限に抑える仕組みを構築した。
また、これまでのデータセンタでは電力会社から供給された電力が、電気設備内での度重なるAC(交流)/DC(直流)変換により、サーバ内部のマイクロプロセッサで利用される前に浪費されてしまうことが電力の効率利用を阻害する大きな要因だった、B社では新しい取り組みとして変換ロスの少ないDC(直流)電源設備を導入することにより、電気設備内での電力の浪費を削減し電力利用の効率化を図っている。 こうした取り組みにより、データセンタのエネルギー効率をしめす数値PUEでは、B社のシミュレーションで「1.46」という値になった。これは、グリーングリッドが2011年の目標として掲げている「1.5」を上回る数値である。 ※1「PUE = データセンタ全体の消費電力 ÷ IT機器による消費電力、最高効率は PUE=1.0」
図表2. ITによるグリーン化8項目の取り組みと具体例
「ITにおけるグリーン化」
東京都を中心にスーパーマーケットを展開しているC社では、ISO14001を店舗本部および全店舗で取得するなど、積極的に環境問題への全社として取り組みを行っている。
そうした背景のもとにIT部門が中心となって、省エネルギー・省資源の取り組みを実施している。店舗での省エネ機器の導入や不要なパソコンを削減するなどによって、2%の削減(2007年における前年比)を行った。販促用のポスター用紙の軽量化や帳票類のペーパーレス保管により、紙資源の無駄を削減している。また、店舗で働く従業員のスケジュール管理をLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)と呼ばれるシステムで行う事により、予測された売上に基づく必要な作業量が事前に計画され、毎日、部門ごとに作業割り当てを作成し、担当者ごとに作業と時間を割り当てている。具体的作業は、別途作業指示書等に基づき行われるが、担当割り当ての無駄を削減することで、それによる様々なエネルギーの浪費を削減できている。
大手機械工業メーカのD社では、製造している製品の省エネ化はもちろん、研究・開発を行うオフィス環境の省電力化を進めている。国内の工場、事務所に散在していた各部門のサーバを1箇所のデータセンタに集約した上で、さらにデータセンタ内に設置されているサーバの仮想化を行った。統合の実施前は、サーバを常時稼動させているのにも関わらず能力の半分も使用していないサーバが多く存在していたが、統合することによってこの無駄を省くことができた。
またこのD社では。年に2回各地域に展開するグループ内情報システムの実態調査を行い、独自に設定した目標達成を目指し、対策を実施している。そのほかに、各拠点で使用する標準クライアントPCは、以前から消費電力の少ない機器を採用することを決めている。
警備、セキュリティーサービスを行っているE社では、営業部門、経理・運用部門、技術部門の3系統で、定例的な幹部会を実施していたが、年間100回以上の会議出席にかかる交通費が問題になっていた。そこで、本社ビル移転を契機に社内LANを利用したシンプルなWEB会議システムを導入した。構成としては、各地方事業所で社内LANにPCとIP電話会議用の音声端末を接続し、Windowsに付属するP2Pのビデオ会議ソフト「NetMeeting」を利用したものだ。ホワイトボード機能、アプリケーション共有、デスクトップ共有、ファイル転送などができる。「NetMeeting」であれば、外部のサーバや会議用サーバを構築することなく利用できるという利点がある。
システムを導入した初めのうちは、「音声端末に向かって発言を行う」という慣れない行為に抵抗を感じた人もいたが、それよりも移動による時間の無駄、経費の無駄を削減できたことへの評価が多かった。また導入後、「相手の顔が見えたほうがいい」という意見が多く出たため、映像共有システムを追加している。そして、システム導入から1年が経過した頃にはグループ会社を含めた幹部会議、技術会議のほとんどをWEB会議システムで行うようになった。
CO2排出量の削減効果では、年間約100回、名古屋と大阪からそれぞれ平均7人が東京へ出張したという実績をもとに評価したところ、導入前では移動のために年間約84トンのCO2排出があったが、導入後は移動自体がなくなったため、これがゼロになった。しかし、WEB会議システムを利用するために約1トンのCO2の排出が発生したため、トータルでの削減効果は年間約83トンという結果になった。
摂南大学が実施している電子自治体ランキングで、毎年上位にランクされる香川県では、ITを積極的に利用した政策の展開で高い評価を受けている。
香川県では他自治体に比べいち早く、WEBサイトでの行政ニュースをはじめとした各種情報を公開しており、情報コンテンツの増加にともないWEBサイトの効率的な運営が課題になっていた。そこで香川県では、民間企業にオープンソースソフトウェアを利用した「CMS (Contents Management System:コンテンツ管理システム)」の開発を依頼した。このCMSでは、WEBページのタイトルや表、画像などのページを構成する部品をデータベースに保存して管理しているため、WEBページの更新を行う職員がそれぞれのシステムからログインを行い、必要な情報を入力してデータベースから画像や表などの部品を参照して組み合わせるだけの簡単な作業でWEBページを更新することが可能となった。このシステムの導入により、以前は週に数件程度だったWEBサイトの更新頻度が1日10件程以上となり、 WEBページに対する作業工数が軽減されたため、これまで封書を利用して発行していた情報をメールマガジンとして発行することが可能となり、県政に対する要望、希望を掲載するWEBページを公開することができた。
CMS導入によるCO2排出量の削減効果を算出したところ、ペーパーレスになった点、紙媒体を配送する必要がなくなったことにより、CO2の排出量を大幅に削減することに成功した。
業務の効率アップを狙ってのCMSの導入だったが、導入によるサーバの増設等が必要になったため、電力消費量は増えてしまった。しかし、最終的にはCMS不採用時の環境負荷がCO2排出量に換算して19,767kgであったのに対し、導入後の排出量は2,063kgとなり、結果17,704kgの削減効果が得られることになった。
図表3. ITにおけるグリーンITの区分と具体例
以上、調べてきたように「ITによるグリーン化」、「ITにおけるグリーン化」と定義されており混在しているため注意が必要だ。エネルギー消費量削減の効果は削減数値と増加数値の差し引きであり、製造段階、利用段階、廃棄段階のライフサイクル全体での考え方「ITにおけるグリーン化」が重要である。
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