株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠
人材育成の必要性(「何故人材育成をするのか」)は今さら、書き連ねるまでもないと思います。しかし、「誰に」、「何を」、「どのように」、「いつ」、・・・と人材育成を追及していく、と正解のない、大変難しい問題であることを身にしみて感じます。
このコラムでは、「誰に」を「システム管理の人材」に絞り、この難しいテーマを会員の皆さまと一緒に検討をしていけたらと思っております。数回にわたって、チームリーダーのリーダーシップを論点として取り上げていきます。
「何を」に対しITSS(ITスキル標準)Ver2では、リーダーシップの知識項目として
- リーダーシップの基本や原則の把握、実践
- チームワークとコミュニケーションの実践
- プロジェクト目標の設定、推進、実行、管理
- チームメンバの連携、動機付けと達成感の提供
が挙げられています。これは全職種共通としてあげられているものです。
また、ITSS研修ロードマップVer1.2ではオペレーションのリーダーシップコースとして、「プロジェクトの推進に必要なリーダーシップ、自身に対する動機づけ、チーム形成を通じたチームメンバに対する動機づけ、対人スキル、確執の管理と合意形成について実践的に学習する」とあります。ではリーダーシップの基本や原則とは何か?
「リーダーシップ」とは国語辞典によれば、指導力、統率力であると示され「力」が強調されています。リーダーシップは昔、天孫降臨のような神がかり的、天性のものという捉え方がありました。そのような「偉大なリーダーに共通する特性は何か、凡人とどこが違うのか」を研究し、迷宮入りしていた時代から、60~70年ほど前になってようやくリーダーシップを「機能」として捉え直し、2大機能(課題達成機能、集団維持機能)の研究がなされ、さまざまなトレーニングが開発されてきました。20~30年ほど前から2大機能の研究に状況論が適用され、「状況の中で効果的なリーダーシップのスタイルは変わる」という研究に基づき、リーダーシップを効果的にするためにはその状況をいかにしてとらえ、柔軟に行動するかが大切であるとされてきています。
また同時に、リーダーシップ研究は川幅が広がり、「指導力」として指導する内容、「何を」にも焦点が置かれ、意思決定のあり方もリーダーシップに含められて来ています。これは、トップのリーダーシップの話ではなく、小集団のリーダーに求められるリーダーシップについても言えることです。今やリーダーシップは単に「対人関係上の影響力」ではなくなっています。
デンマークのコンサルタント、カリン・ザストローは、数年前クリスチャン・ハンセン社(デンマークの国際的食品添加物産業)のリーダーシップ開発の責任者でしたが、そのとき、プログラム開発のリサーチ段階で、
- 多くのリーダーが、自分達に求められている役割を理解するという基本的なことに欠けていること、
- その基本的なことを教えてくれる職場はほとんどなく、個人で学習することが期待されているか、あるいは全く学習されないままであること、
- そのためリーダーの責任は、単に下からの報告をまとめて自分の上のリーダーに報告することだけと捉えているリーダーが多い、
- 基本的なことを自然に覚えてしまう人々もいれば、リーダーシップを生まれながらに持っている人もいるが、極めてまれである。
という現状に直面しました。(この現状は、現代日本のシステム管理の職場においても同じことが言えるのではないでしょうか。)
自然に覚えてしまう人々や生まれながらに持っている人が現れるのを待っていては、60~70年前以前に立ち戻ってしまいます。生まれながらではなく、もっと後天的に育成可能なスキルとしてリーダーシップを捉える必要があります。また自然に覚えてしまう人々は一体「何を」覚えたのかを明確にしなければなりません。このような背景からカリンは、2001年にダイレクト・リーダーシップR(初級リーダーを対象としたプログラム)の名前で基本的リーダーシップトレーニングプログラムを発表し、「リーダーとして果たすべき基本的な責任」として[1]戦略展開、[2]組織開発、[3]ナレッジマネジメント、[4]チーム作り、[5]キャリア開発、[6]意思決定、[7]業績向上、の7つの役割を設定しています。これはITSSの言う「リーダーシップの基本や原則」に対して一つの枠組みを与えるものと言えるでしょう。
ダイレクト・リーダーシップRは2日間のコースで、この7つの役割を理解し、それぞれの役割は、自分の職場でどのような活動をすることなのか、今自分はどれくらいやれているのか、当面どの役割を啓発していく必要があるのか、を一つづつ検討していきます。
次回は、「どのように」リーダーシップを開発していくのかについて検討していきたいと思います。
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