システム管理における人材育成

システム管理における人材育成 コンピテンシー・組織状況とリーダーシップ(2)

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

今回はシステム管理のチームリーダーに対してどのようなコンピテンシーが使われているかコンピテンシー項目について検討していきたいと思います。ある会社での事例として話しを進めていきます。事例ですので、どの会社のシステム管理のチームリーダーに対しても、このままでOKという訳には行きません。会社におけるシステム管理の役割の違い、システム管理の職場状況による違いが反映されたものでないといけないことを、予めお断りしておきます。
 
1番目のコンピテンシーとして、安定性があげられます。この会社は、仕事自体の変更が多く、それに伴いシステムの変更、マニュアル化の遅れが良く発生します。そのようなとき何をやったらいいか分からない状況に対して、他を非難しても始まりません。いらいらせず落ち着いて冷静に自分の頭で考え、対処していかなければなりません。滅多にありませんが、ユーザから突然クレームを言われたり、システムの不具合が発生したりすることにも動揺せず、しっかり安定して対応できなければなりません。
2番目のコンピテンシーは概念化能力と呼んでいる能力で、物事をさまざまな関連の中で理解し、難しいことでもたとえ話やモデル化して分かりやすく人に説明できる能力です。システムは、部外者からすると魔法の箱であり、インプットとアウトプット以外分かりません。分かろうともしない人が多い。ですから、システム管理で起きている状況をシステム用語で話しても、部外者には分かりません。そこでシステムを理解していない人にも分かるように説明できることが大切になってきます。また、システムを理解している開発者に対しても、システム管理上の要求を的確に表現する能力が必要になります。また概念化能力は、問題解決に必要な能力です。原因を、論理的に追究する、思いついた解決策をさまざまな観点から検証するなどの能力です。
3番目のコンピテンシーは行動力です。システム管理者にはこの項目に、苦手意識を持っている人が多いというイメージがありますが、決してそうではありません(この会社には行動力のあるリーダーが結構いらっしゃいました)。このコンピテンシーを、誰に対しても、いつも、何に対しても話し、行動していないといけないと誤解しないようにしなければなりません。いつもやっていたらうるさくて職場の生産性を下げるでしょう。キーとなる人と対応するときは、熱意をもって行動する。会議でも自分の出番にはしっかり発言している。やるべきことに対しては、やる気一杯で、活力にあふれ多少の困難にも挑戦していく。むしろ普段はおとなしい感じの人であることが多いですが、いざというときには、行動力が発揮されるのがポイントです。
4番目のコンピテンシーは自己統制です。最近重要視されているコンプライアンスに関係して、自分の欲求に振り回されず、倫理的にしてはいけないことはしないと自分を統制することが出来る人でなければなりません。自己統制にはもう一つ重要な面があります。周囲の雑音などに惑わされず集中力を持続させるとか、慌てる心を静めることができるといった、1番目の安定性とも関連する面です。また自分の成長のため学習を続ける態度もこのコンピテンシーに含まれます。
5番目のコンピテンシーは柔軟性です。先に言いましたようにこの会社は変更の多い会社です。突然、仕事のやり方が変更されたときでも、抵抗を感じることなくやっていけなければなりません。関係する人から無理な要求を言われても、柔軟に対応することも大切です。また人から教えてもらうことができる態度もこのコンピテンシーに入ります。この柔軟性は実は、自分に対する自分の見方が影響しています。特に自分の能力に対する自信が根底にあります。真に自分の力に自信のある人は、今出来ないことを隠す必要がありません。すぐに出来るようになるという実感を持っていますから、「聴くは一時の恥」で、すぐ聴けるのです。しかし自分の力に自信のない人は、自分に出来ないことを隠そうとします。出来ないことが知られたら、もう取り返しがつかないと感じてしまうからです。この差は新しい仕事に対する態度にも表れます。自分の力に自信のない人は、新しい仕事に対し、出来なかったら、あらためて自分の力のなさを自分で認識しなければならないと思うので、その仕事に対してしり込みしたり、逃げたりする態度が見られます。自分の力に自信のある人は、いつかはできるようになり、新しい世界が拡がるかもしれないという期待を感じその仕事に取組むことが出来るのです。それも積極的に。 6番目のコンピテンシーは状況感受性です。メンバー・ユーザに対して、言っていることだけでなく気持ちを感じ取る。周囲からの期待を、言われなくても理解できる。また職場の何気ない兆候から問題に気づく能力です。問題は与えられるものではない。自分で発見し、解決するものだという心的な態度が重要です。
7番目のコンピテンシーは対人関係能力です。人に働きかけ話をする。必要なことだけでなく雑談も交わすことが効果的です。雑談と思っていたことの中に重要な情報が混じっていることは良くあることです。またどのようなメンバー、ユーザに対しても言うべきことをいいながら、関係を悪化させずに仕事を進めていくこともリーダーとしては重要です。 最後のコンピテンシーは目標指向です。仕事にあたって障害があっても投げ出すことなく、最後までやりとげる。メンバー・ユーザとの約束は、必ず実行する。また目標指向のなかには仕事に当って目的をしっかり押え、誰に貢献する仕事なのかをいつも意識して仕事をすることも含まれます。
 
この会社は、以上8項目をシステム管理のリーダーのコンピテンシーとして設定し、主に教育に活用しています。コンピテンシーの作成は、優秀なシステム管理のリーダーだった人、及び現在、優秀なリーダーであるとほとんど人が認めている数人に対するインタビュー、その人たちと深く関係した人たちへのインタビュー(その人たちはどのようなことを良くやり、良く発言していたかについて)により、その人たちのもつ行動、態度、考え方の特徴をまとめ、併せてシステム管理の状況診断から状況が要請するリーダーの行動をまとめ、両方を行きつ戻りつしながらコンピテンシー項目と、項目の内容説明(定義)を作成したものです。
 
次回はコンピテンシー項目に基づく評価方法と、教育としての向上策について検討してみたいと思います。

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筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

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