システム管理における人材育成

システム管理における人材育成 コンピテンシー・組織状況とリーダーシップ(3)

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

今回はコンピテンシー項目に基づく評価方法について検討してみたいと思います。前回と同じ会社のコンピテンシーを例として説明します。前回、この会社のコンピテンシーは、①安定性、②概念化能力、③行動力、④自己統制、⑤柔軟性、⑥状況感受性、⑦対人関係能力、⑧目標指向であると紹介しました。
各対象者が、これらの項目を現在どれくらい保有し、発揮しているか、モノサシを当てるように、何点と数値化できれば苦労はないわけですが、そのようなモノサシは残念ながら存在しません。評価についていくつかの方法を紹介します。
 
1、通常の人事考課と同様に、日常の仕事振りを観ている上司が評価する方法です。通常の人事考課は、半年に一度、上司のマネジメントとして当たり前に、しかし苦痛を伴う仕事として行われていると思います。評価する上司に対しては評定者研修が管理職研修として行われ、そこで評価・査定の仕方、考え方について学習していると思います。しかし苦痛であることに変わりはないでしょう。普段から注意深くその部下であるリーダーの行動、仕事振りを観て、記録を取っておかなければなりません。ハロー効果(ある一つのことが素晴らしいと、他のことも素晴らしく見えてしまう)や、直前効果(査定の一週間まえの失敗によりその前半年のことを忘れてしまう)などにも気を付けなければなりません。
しかし上司が最も気を付けなければならないのは、上司が自分自身をどのように見ているかということがフィルターになっていることに気づくことです。また同じメカニズムによることですが、上司自身が抱えている問題を、評価対象者に投影しないようにすることです。日々上司は対象者の行動を見ていますが、一々その行動の真意まで確かめたりはしません。その場で自分なりに解釈して記憶にとどめます。このとき上司自身の組織観、仕事観、人間観などがフィルターとなってしまうことが、現実をゆがめてしまう恐れがあることです。上司は常日頃から、自己理解を深め、どのように解釈してしまう傾向があるかを理解しておくことが大切です。上司自身が抱えている問題を、評価対象者に投影してしまうことについては、以前、防衛機制として解説したことです。
 
2、対象となるリーダー自身が自己評価する方式を採ることも多いと思います。例である会社でも、この方式を採用しています。各コンピテンシー項目対して具体的な行動を記述した文章を3つほど作成し合計24の文章が、最近の自分の行動としてどれくらいあてはまるかを7段階(「その通り」から「全くそのようなことはない」まで)で答え、コンピテンシーごとに合計します。この方式には、いくつか留意しなければならないことがあります。そのうち最も大切なことは、人により甘辛があり、評点を他の対象者と比べることは出来ないことでしょう。育成という観点からは、他と比べられなければ意味がないというわけではありません。
8つのコンピテンシーの中で自分は相対的にどれが得意でどれが苦手であるかは、自己評価で明確にすることができます。項目間の相対的な得意、苦手は、他者評価と、自己評価でほとんど差がないことはいくつかの会社、職場で確認しました。(注意;「大志」など本人の気持ちそのものによるものは、周囲には分かりにくい傾向があります。また「注意深さ」など評価する基準そのものが本人に分かりにくい項目は、「私は注意深い」など直接的な質問での回答では周囲とは食い違う傾向が見られます。) 自己評価は手軽に何回でもできます。育成にだけ活用するということが、本人に納得されれば、嘘をついても始まりませんので、この方式は立派に機能します。
 
3、360度フィードバックと呼ばれる方式を活用している会社も増えてきています。上記2での質問紙の表現を「自分は」と「○○さんは」の2通り作成し、自己評価と、他者評価(上司、同僚、部下)を同時に行います。対象者であるリーダーのコンピテンシーを自分、上司、同僚、部下の4つの面から評価し、集計結果を本人にフィードバックします。この方式は配布、集計など手間はかかりますが、インパクトは大きく教育的効果は非常に大きいと思います。しかしこの方式も、通常の昇進昇格、ボーナス査定などに活用しようとすると、途端に不正確な、回答者たちの意図が強く働いた結果(現実のコンピテンシーを反映しない)しか得られなくなります。
 
4、採用、昇進昇格試験などでは、よく専門スタッフによるインタビューにより評定することもあります。過去のある出来事を思い出してもらい、その時どのように考えたか、行動したかなどを聞き出して評価していきます。短い限られた時間で評価するには訓練を受けた専門家が行う必要があります
 
5、アセスメント研修として、2~3日間のグループ討議や、実習を中心にしたワークショップをアセッサーと呼ばれる専門スタッフが観察して評価することもあります。コンピテンシーの各項目の発揮が必要となる状況を模擬的に作り出し、そこでどのような行動をとるか、その効果性はどうかをスタッフが見ていきます。この方法では、研修プログラムの設計段階で、いかに臨場感のある状況が作り出せるか、研修実施段階で専門の訓練を受けたスタッフがアセスメントに当れるかがポイントになります。かなり客観的な評価を得ることができるでしょう。
 
6、知識、論理的思考、推理力、注意深さなど、コンピテンシー項目によっては、ペーパーによるテストができるものもあります。心理学者によりさまざまなテストも作成されており、検討する価値はあると思います。
 
7、他に、会社のトップなどを選定するとき、経歴の査定や、あるプロジェクトを担当させる、子会社の経営を任せるなども広い意味でのコンピテンシーの評価と言えるでしょう。
 
このように、さまざまな方式が現在行われています。コンピテンシーを何に活用するかを明確にし、それに使える評価方式を使用することになります。心しなければならないことは、コンピテンシーのすべての活用(採用、教育、配置、昇進昇格など)に耐えうる評価方式は未だ発明されていないということです。
 
次回はいくつかのコンピテンシー項目に対する向上策について検討してみたいと思います。

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筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

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