株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠
今回は、コンピテンシーのまとめとして、組織状況とコンピテンシーの関係を検討してみたいと思います。
前回まで、事業内容や事業のライフサイクル(導入、成長、成熟、衰退など)段階、業務により、また組織の風土により、各会社、職場におけるコンピテンシーは、さまざまに変化すると申し上げてきました。それを認めたとすると、実際に皆さんがコンピテンシーを構築し、活用していくにあたって、「最小限おさえておかなければならないコンピテンシーは何か」、また「どんな状況でも共通して有効なコンピテンシーがあるのではないか」、それから「さまざまな組織状況に対して、どのようなコンピテンシーが必要か」などの疑問があがるのではないかと思います。
そこで、最近、㈱ビジネスコンサルタントがIT業界の数社に対して行ったアンケート形式の「自分の強みの認知と、組織状況の認知診断」の結果から導かれるいくつかの仮説をお話していきたいと思います。
このアンケートは、3部からなります。
第1部は組織状況の認知を聴きます。今、我が部門が、事業創設、事業成長、体制構築、業績達成、組織永続、再展開化のどこにあるかを選んでもらいます。この6つは、事業のライフサイクルの「導入、成長、成熟、衰退」を6つに細分化しなおしたものです。
第2部は、さまざまな能力要件を、この6つの組織状況がそれぞれ求める能力として分類し、自分はどの分類に入る能力を得意と感じているかを聴きます(対応する名称として事業創設者、成長促進者、体制構築者、業績達成者、組織永続者、再展開挑戦者と呼びます)。アンケートとしては、コンピテンシーを元に「能力的な表現」に変えて質問項目を作成します。
第3部は、自分の成果・貢献度・職場での働き易さなどを自己評価し、その程度を答えて頂きます。
分析は、第1部と第2部をクロスさせて、各組合せ(例えば、組織状況は事業成長であると認知し、自分の得意な能力は組織永続者であると認知するなど)の人たちが第3部でどの程度の高さであるかを分析しました。
分析結果は2点に要約されます。
1.あらかじめ想像されるように、組織状況の認識に合った
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能力要件を得意とする人は、成果・貢献度・職場での働き易さにおいて高い評価をしており、組織状況の認識に合わない能力要件を持っているとする人の成果・貢献度・職場での働き易さは、評価が低く出ていることが確認できました。組織が求め、自分が果たさなければならないと感じている能力と、自分の得意能力が一致しているという思いは、生産性を上げ、結果にも満足でき、成長感を満たし、やる気を向上させることが分かります。当たり前のようですが、重要な結果であると思います。
2.しかし、組織状況の認識に合った能力要件を得意とする人であっても、成果・貢献度・職場での働き易さの低い一群がいる事が認められました。この人たちに共通する特徴は、組織状況に対して、他の多くの人の組織状況認識とずれた認識をしている人たちでした。
ある会社の例です。この会社は永い社歴をもち、現在各種の変革に取組んでいる会社です。全社一斉に診断を行いました。(その中で運用部門としても集計をしましたが、全社と特に大きな相違点はありませんでした。) アンケートで、組織は再展開の状況(ライフサイクルで衰退期にあり事業の再展開が必要な時期)にあると半数近くの人が認知していましたが、体制構築の状況(成長期にあたり、仕組み役割分担、制度、ルール整備をして一層の成長をはかる状況)にあると認知している人たちが10%程度いました。この人たちの中で、自分は体制構築に求められる能力(役割分担をし、マニュアルを作り、制度やルールを整備することに必要な能力)に長けていると認知してる人は、1の結論からすると成果・貢献度・職場での働き易さは高く出ていいはずですが、実際は、低(それも非常に低い)かったということです。状況判断を誤っているのですが、本人はそれに気づいていません。初めは良かれと思い、自分の能力を発揮してがんばるのですが、期待する成果は得られません。周囲の人々に評価もされません。この人たちのアンケート結果の特徴は、会社に大きな不満を抱き、やる気が(非常に)低いということです。この結果を、実施した会社の幹部の方たちに検討していただいたところ、「これだけ組織の変革を展開しているのだから、本人たちが組織が再展開であるのに気づかないのは、状況感受性がないということである。しかし、本人の責任だけとはいえない面もある。組織状況認知のずれは、その上司が行っている日頃の体制構築的マンジメント(細かいルールに従うことを強いる、一旦決めた役割分担は何があっても変えようとしないなど)が原因であるような気もする」。(この診断は無記名でやりましたので、どこの誰が、どのようなマネジメントを受けているか具体的には把握しませんでした。)
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この1番目の結果から言えることは、組織状況の認識に合った能力要件を開発して行こうする姿勢が求められているということです。コンピテンシーとしては、自己統制、学習力などになると思いますが、自分の能力を小さく、狭く決め付けないで、大きく広く自分を成長させようとする姿勢・考え方、行動が大切です。2番目の結果から言えるのは、どのような組織状況であるのかを感じ取れる「感受性」が必要とされること、リーダーとしては理解していることをマネジメントで実践できる「柔軟性」、「行動力」が必要であることです。これらのコンピテンシーは、他のコンピテンシー発揮の基盤を提供するメタコンピテンシーと言ってもいいと思います。
あまり断定的な言い方をしたくはありませんが、どの会社、どの事業においても、社会人として企業人として求められる基礎的なコンピテンシーと言えると思います。
前回までコンピテンシー活用の説明で使ったある会社のシステム運用部門のコンピテンシーは(1)安定性、(2)概念化能力、(3)行動力、(4)自己統制、(5)柔軟性、(6)状況感受性、(7)対人関係能力、(8)目標指向でしたが、そのうちの半分に当たる、(3)行動力、(4)自己統制、(5)柔軟性、(6)状況感受性 は、欠かせないコンピテンシーと言えると思います。
はじめに、疑問を3つ並べましたが、初めの2つについては以上のことがらが結論といえます。しかし第3の疑問、「さまざまな組織状況に対して、どのようなコンピテンシーが必要か」については、アンケートのサンプル数がネックになってきます。数多くのコンピテンシーを一つ一つ、状況と突合せて分析をすればよいことは分かっていますが、統計的に意味のある結論を出すには未だサンプル数が圧倒的に足りません。これからの研究課題です。
コンピテンシーについて第7回から5回にわたり検討してきましたが、次回は本コラム1年間のまとめとして、リーダーシップ全体について、まとめをしたいと思います。
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