- 目次
- 1. なぜ必要? わかりやすく伝える力
- 2. 3つのチカラを鍛えよう
- 3. 嬉しいお知らせ!「第11回システム管理者感謝の日イベント」が開催されます
「AI」「自動化」「少子高齢化」
変化の時代、私たちシステム管理者にもチャレンジと変化が求められています。 とはいえ、日々の通常業務に追われているだけでは、なかなかチャレンジも生まれない。変化のきっかけもない。 この連載では、主にヒューマンスキルを中心に、明日を生きるシステム管理者に求められるスキルとは何か? 日ごろの意識と行動をどう変えていったらよいか? をみなさんと一緒に考えます。
1. なぜ必要? わかりやすく伝える力
これからの時代、私たちシステム管理者にもエンジニアにも求められるもの。それは「わかりやすく伝える力」。
- ・何が問題で、解決すべき課題は何か?
- ・つまり、それはどういうことなのか?
- ・自分の仕事の価値は何か?
相手にとってわかりやすいコトバで噛み砕き、相手の景色でものごとを説明できる。このスキル、さまざまな局面で求められるようになってきました。
「え。私、エンジニアとしか仕事していません。専門用語で分かり合えれば十分でしょ…」
「普段、システム監視してインシデント対応しているだけ。説明なんて必要ない」
「技術が分からないヤツらなんて、ほっとけば?」
残念ながら、そうも言っていられなくなってきました。
(1) ITシロウトが、ITを使うようになってきた
企業の情報システム。ここ数年で、ユーザ部門、すなわち情報システム部門ではない現業部門(営業部、広報部、人事部、設計部など)が直接ベンダと契約するパターンが増えてきました。いままでは情報システム部、すなわち業務語とシステム語を翻訳する介在者がいました。その介在者なしに、私たちは時に、システムのことがまったく分からないユーザ部門のシステム担当者とやりとりしなくてはなりません。
ある調査によると、企業の情報システムにおいてユーザ部門が予算を持っている割合は、2012年にはおよそ30%。最近では40%近くまで上昇しているそうです。
「IT予算の財布の紐が、CIOからCXO(例:CMO、CHRO、CPO)へ」などと言われていますが、年々IT予算がユーザ部門にシフトしつつある傾向がうかがえます。
予算の移行とともに、ベンダとのやりとりも情報システム部門からユーザにバトンタッチ。
実際、私が最後に勤めていた製薬会社でも、業務システムの要件定義~運用まで、すべてユーザ部門で進めてくれというスタイルになりました。
(情報システム部門が統括するのは、ガバナンスと基盤系(コミュニケーション基盤、認証基盤、データセンター、ネットワークなど)のみ)
すなわち、非IT部門のITシロウトがベンダと直接やりとりしてシステムを回さなければならなくなりつつあります。
いままでのように、専門用語を並べ立てて説明しても相手はわかってくれないでしょう。また、運用業務そのものの意味や価値も説明できなくてはなりません。
周りを見回してみてください。
悲しいかな。「失敗プロジェクト」「炎上案件」がごろごろ転がっていることでしょう。ITのプロ、すなわち情報システム部門が介在して進めていてもこの有様。ユーザ部門⇔ベンダの状況になれば、さらに「言った」「言わない」や「抜け漏れ」が増えて状況がマズくなるのは明らかです。
(2) 運用観点が忘れられやすい
運用観点。システムの安定運用のためにユーザもベンダも欠かしてはいけない視点。
本来、要件定義段階から意識してシステムの要件に盛り込み、なおかつ運用のための予算も確保しておく必要がある…
はずなのですが、これまた悲しいかな。どうもスポンと抜けてしまいがち。
そして、運用開始間際になって運用サイドと揉める。悲しきあるあるです。この状況、情報システム部門の不介在化が進むとさらに悪化するでしょう。
最近聞いた話。あるベンダが、ユーザ企業のシステム構築を請け負いました。設計も開発も無事終わりテストフェーズに。そこで営業が運用を提案しました。
ところがこのユーザの反応は…
「はあ、運用監視?維持保守? そんなのがあるんですか? でも、壊れないシステムを作ってくれれば監視も保守も必要ないですよね。無くていいです!」
………。
私たちシステム管理者からしたら、呆れて声も出ない無邪気っぷり(早めに運用の存在をちらつかせない営業にも問題ありそうですが…)。
ユーザは運用観点を、いいえ、そもそも運用の存在自体を知らない可能性があります!
おそらくユーザに悪気はありません。ただ知らなかっただけ。
せめて、PMや開発メンバが要件定義段階で運用観点を持ってユーザと接してくれていれば。営業が受注段階で運用の存在をユーザに説明してくれたなら。この抜け漏れ、防げたかもしれません。
失敗プロジェクトのおよそ8割が要件定義の漏れに起因すると言われています。さらに、その多くが非機能要件(可用性、レスポンスタイム、同時アクセス数、バッチ処理の頻度や時間…など)や運用要件漏れとも言われています。
【図2】運用観点・運用要件の抜け漏れがさらに深刻に
残念ながら、一般の人に運用観点はありません。運用業務自体を知りません。
「運用って何で必要なの?」
「そもそも、システム運用するってどんな価値があるの?」
さらには
「私たち運用者ってどんなことをしているの?」
これを日ごろから私たちは分かりやすく説明できなければりません。毎日、データセンターの監視室に篭こもっているだけではダメなのです。
2. 3つのチカラを鍛えよう
わかりやすく伝える。そのために、3つのチカラを鍛えましょう。その3つとは、図解力、比喩力、ストーリー力です。
(1) 図解力
ものごとや事象を図で示す。
図は相手との観点の相違点や、抜け漏れを見つけるためにもっともシンプルかつ強力なツールです。
プロセス図、マトリクス、パレート図、比較表、ピラミッド構造図、円の重なり合い…
【図3】 図を使いこなそう
場面に応じて使える図はたくさんあります。
いつもの会議や打ち合わせ、図を使ってまとめてみる。あるいは自分の理解を図で示してみましょう。
図解は習慣です。日ごろ使っていれば、間違いなく自分のスキルになります。
そして、ユーザの頭の中に「運用観点」「運用業務」という図を描いてあげられるようになりたいものですね。
(2) 比喩力
「これって、日常生活にたとえるとどう説明できるだろう?」
「相手の業務のコトバで説明したら、どうなる?」
たとえて説明するチカラ。これも、ユーザとの円滑な意思疎通に重要です。
私たちは、ともすれば、エンジニアによるエンジニアのためのエンジニア用語で説明しがち。
相手は相手で分かったつもりで流してしまう(あるいは面倒くさくて聞き流してしまう)。これが後々問題に。
「よく分からない」→「任せた(マル投げ)」→「え、聞いていない!?」→炎上
こんなスパイラルに陥っていませんか?
私はダムが好きで、先月もダム仲間3人でみなかみ(群馬県)のダムを巡ってきました。
国土交通省さんも、水資源機構さんも、最近はダムの認知度向上と価値伝達にすごく努力されているなと感じます。
管理事務所やギャラリーでは、ダムの統合運用の仕組みや、関連施設(堰・浄水場・ポンプ場ほか)の役割や価値を非常に分かりやすく説明している。子どもでもわかるような、平易なコトバとたとえ話で。
こういった価値伝達の取り組み、私たちも見習いたいです。
日頃、都会で暮らしている私たちにとって蛇口をひねって水が出るのは当たり前。
一般の人には存在すら意識されないダム。
とても大事なのに、無くてはならないのに、ともすれば「お金の無駄遣いだ!」「そんなもん要らん!」と非難の対象にすらなる。
…あれ、これってもしかして誰かさんたちと同じかもしれない!?
(3) ストーリー力
「なぜ、運用が必要なんだろう?」
「運用がないと、どんなことになるの?」
ストーリーで説明できたら最強です。
得意な人は、マンガやイラストで説明してみるのも良いでしょう。
最近、とても良い技術書が出版されました。
「わかばちゃんと学ぶ Git使い方入門」(シーアンドアール研究所刊:湊川 あい著、DQNEO監修)
【図4】
https://www.amazon.co.jp/dp/4863542178
世界共通のバージョン管理ツール、Gitをマンガで分かりやすく解説した一冊。
とても分かりやすい事例(「お好み焼きを作るのに、最後にコーラを混ぜてしまって台無し!さあ、どうやって元に戻す?」ほか)を用いて、ストーリー形式でGitの関連ツール(GitHub、Bitbucket、SourceTree)の使い方を説明しています。
Gitの知識はもちろん、ものごとを分かりやすく説明する価値を現役のWebエンジニア(著者の湊川 あいさん)が教えてくれる良書でもあります。
ムリに難解な言葉で説明しようとせず、「一目瞭然」を目指す。これは大きな価値です。
プロ相手に、難しいことを難しい言葉で説明する。これは誰でもできます。
矢継ぎ早に専門用語で一方的に説明しただけ。これでは説明責任を果たしたとは言えません。相手にわかってもらえてなんぼ。
シロウト相手に、難しいことをわかりやすく説明できる。これができる運用エンジニアは、間違いなく価値高く生き続けることができるでしょう。
3. 嬉しいお知らせ!
「第11回システム管理者感謝の日イベント」が開催されます
ここで嬉しいお知らせがあります。
来る、7月13日(木)に「第11回システム管理者感謝の日イベント」が開催されます。
テーマは「チャレンジするシステム管理者AI、ロボット、そしてエンジニア魂」
本連載のテーマでもある、チャレンジにスポットを当てた大イベントです。
「システム管理者」というと、管理職だけが意識すればいいように捉えられがち。このイベントは、若手の皆さんこそ参加する価値大です。
先人の講演を聞けるのはもちろん、他社の技術者とも交流できます。交流を通じて、自分の仕事を説明する。これは「わかりやすく伝える力」を鍛える絶好のチャンスです。また、「関係構築力」(連載第4回で解説)の強化にも。
そして今回、なんと大人気マンガ「シス管系女子」も登場するそうです!
小難しいシステム運用・管理の世界を、分かりやすいマンガで説明している、まさに「わかりやすく伝えるチカラ」の体現事例ですね。
このような場も積極的に活用して、私たち一人ひとりが運用業務の価値向上に努めましょう。
営業を、PMを、開発を、ユーザを主体的に巻き込んで自分たちの価値を示していく。私たち、システム運用業務のプレゼンスを高めていく。
私たちのチャレンジは、そこから始まります!
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次回は5つのヒューマンスキルの2つ目と3つ目、「フレームワーク応用力」「ナレッジ管理力」を解説します。
自動化の流れに不安になりすぎる必要はありません。私たちシステム管理者ゆえの強みは間違いなくあります。
ただし、今までと同じやり方、昨日と同じ考え方では、間違いなく明日はないでしょう。
私たちの強みと脅威を冷静に見つめ、明日を生きる「システム管理者2.0」にバージョンアップしましょう!
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