組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第3回:組織横断で取り組むIT資産管理プロセスの構築(その3)

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

国際IT資産管理者協会では年次カンファレンスとして IAITAM ACE(Annual Conference & Exhibition)を米国、欧州、日本で開催しています。米国では春に、欧州・日本では秋に開催しています。日本は10月24日にACE Japan 2018が開催されましたが、そこでは Microsoft社から興味深い日本初のサービスの紹介がありました。簡単にMicrosoft社が発表した 「マイクロソフト SAM マネージド サービス プログラム」について、なぜ、Microsoft社がそのようなサービスを提供するのか、ユーザーにとっての利点は何かについて簡単に解説したいと思います。

Microsoft社は多くのITベンダーがそうであるように、サービスプロバイダへの転換を図っています。さまざまなITベンダーがクラウドサービスなどを中心としたサービスプロバイダへと転換を図っていますが、同社も同様にクラウドサービスへの大きなシフトを行い社内のリソースも、よりユーザーとの距離を縮めるための組織へとシフトしています。

ベンダーマネジメントは、ユーザーにとって今後のパートナー戦略を支える重要なケイパビリティですが、多くのユーザー企業にとってベンダーのサービスや製品を正確に把握し、契約体系や契約書の内容を把握したうえで、戦略的な交渉を進め、ベンダーとの関係性をサービスプロバイダとの連携に移行することは欧米でも難しい取り組みの一つとなっています。
Microsoft社のSAM マネージドサービスは、ユーザーへの安心感の提供と、Microsoft社との距離を縮めて、パートナーシップを構築しやすくするための一つの取り組みと言えます。

同サービスのメリットの一つである「フレッシュスタート」は、「過去のライセンス違反については不問にする」というような内容であり、より良いパートナーシップを構築するための開始地点として安心感の高い入り口を提供しています。その背景には、欧米のユーザー企業の取り組みにおいてもベンダーマネジメントにおけるケイパビリティとして「ベンダーのサービスや製品を把握し、契約体系や契約書を把握し、戦略的なパートナーシップを構築するために必要な知識を獲得する」という専門性の獲得の難しさがあります。今までの関係性がリセラーなど流通パートナーを介して行われていたためにユーザー企業との直接的な信頼関係を構築しにくく、距離を縮めることが非常に困難であることから、ユーザーへの安心感を提供し、ロードマップを共有できるパートナーとしてのポジションを獲得するために提供するサービスの一つと考えられます。

ユーザー企業にとっては利用価値のあるもので、フレッシュスタートと契約統合により契約交渉力を獲得し、Microsoft社のサービスや製品、契約体系、契約書を把握することでより戦略的なパートナーシップを構築しやすくなります。さらに、契約統合によりライセンス最適化の可能性と同時にコスト削減をも可能にするのですが、やはり、ここでの課題はそれを実現するためには「ベンダーマネージャ」のケイパビリティが不可欠であるということです。

本コラムではIT資産管理によりソフトウェアライセンス契約を含むIT資産のコントロールには、ベンダーマネジメントのケイパビリティが不可欠であることをご説明してきました。海外の現在の事情と日本の状態を比較するためにACE Japan 2018カンファレンスでは欧州でSAM コンサルテーションなどに従事しユーザー企業の取り組みを支援してきた経験のあるフランス人のコンサルタントに欧州の事情などをパネルディスカッションで質問してみました。彼女の経験から欧州では約1万2000人以上の従業員規模であればVMO(Vendor Management Office)が設置されており数人のベンダーマネージャが従事している可能性が高く、その規模以下であれば、ほぼベンダーマネージャは社内にはいない、ということでした。

ライセンス最適化をするためには契約書や契約条件、購入情報が必須であることは、以前にも何度か説明した通りですが、これらの情報を集約する機能としてVMO もまた必須の機能といえます。情報が集約されていない場合は、運用チームが管理ツールを導入してもSAM/SLO ツールを運用するために構築しなければならないベースラインに不可欠な契約・発注・割り当て情報を入力することができないからです。

そしてベンダーマネージャはそれぞれのベンダーの契約体系、契約書、契約条件、発注などの関係性と割り当てやコンプライアンスの条件などを理解した上で、運用チームに対して適切な管理メトリクスや内部コンプライアンス報告書などのナレッジを共有しながらコンプライアンスを維持しなければなりません。それでは、社内にそのような専門性をもった人材がいない規模の組織や、必要なベンダーマネージャの育成が間に合っていない組織はどうするのか?という質問を同コンサルタントに投げかけてみました。彼女の回答は、「欧州のユーザーの成熟度は高く、規模が大きい組織であれば、ベンダーマネージャの育成に時間やコストを投資している組織もありますが、そのようなナレッジやベンダーマネージャが社内で確保できない場合は、ベンダーマネージャのナレッジを持ったアウトソースを利用して対応するしかないので、そのようなサービスを提供するサービスプロバイダが存在しています」ということでした。

日本においても恐らく、ベンダーマネージャが圧倒的に不足している現状を鑑みると、サービスプロバイダが専門性の高いベンダーマネージャをアウトソーシングサービスとして提供するのがユーザーにとっても好ましいソリューションとなり得ると考えられます。しかし、注意するべきは、ベンダーマネージャの専門性にどのようなナレッジが求められるのかは、ユーザー側でも理解し、要件として管理できるようにしておかないと求められる専門性をもったベンダーマネージャかどうかを判断することは困難であるということです。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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