目指せ、運用デザイナー!~システム管理者の明日を考える

第8回:環境セットアップ/風土醸成

概要

開発と運用の壁。これがさまざまな問題を生む。開発担当者は運用を考えずにシステムをリリースし、足りない部分は「運用でカバー」の一言で運用担当者にナントカさせようとする。そして、たいてい火を吹く。なぜなら、リリース間際に対処しようとしても付け焼き刃の属人的な対応しかできないからだ。この状況、運用も開発も、何よりシステムを使う顧客やユーザも幸せにしない。運用をデザインしよう。この連載では、運用を主体的にデザインし、価値あるITサービスを提供できる人材になるための視点や行動を考えます。

目次
人事制度
オフィス環境整備
DevOps
チャレンジする機会を設計する
目立たない仕事にも光を当てる

開発と運用の壁。これがさまざまな問題を生む。開発担当者は運用を考えずにシステムをリリースし、足りない部分は「運用でカバー」の一言で運用担当者にナントカさせようとする。そして、たいてい火を吹く。なぜなら、リリース間際に対処しようとしても付け焼き刃の属人的な対応しかできないからだ。この状況、運用も開発も、何よりシステムを使う顧客やユーザも幸せにしない。運用をデザインしよう。この連載では、運用を主体的にデザインし、価値あるITサービスを提供できる人材になるための視点や行動を考えます。

最終回となる今回は(6)の「環境セットアップ/風土醸成」についてです。(クリックで拡大)

運用人材が運用デザイナーとして輝くには? 個人と組織が成長し続ける組織を創るには? 制度や環境のセットアップも重要です。

1.人事制度

「売り上げしか評価してくれない」「目先の成果しか評価されない」「成果主義で、業務改善の努力やプロセスはまったく評価されない」
これでは、改善の組織風土も、育成や情報共有のモチベーションも、ましてや組織を良くするための内発的動機付けも生まれません。よって、旧態依然の人事制度のアップデートが必要になります。

以下、健全に成長する組織風土の醸成に効果があった人事制度の例を列挙します

・新たなチャレンジをした人や組織を評価する
・「やめる」ことを評価する
・育成活動を評価する
・社内外への情報発信やノウハウ共有を評価する
・「らしさ」を体現した行動を評価する
・上記の取り組みを促進した管理職や部門を評価する

ポイントは減点評価ではなく加点評価。減点評価にしてしまうと、「やったふり」「その場のアリバイ作り」のための形骸化した取り組みが横行しがちです。

2.オフィス環境整備

暗いオフィスから明るい対話は生まれません。
固定席しかなければ、他部署や他チームの人との偶然の出会いも会話もなかなか発生しません。
個室やフリースペースがなければ、雑談もできなければ、上司に悩み事の相談もしにくいでしょう。
堅苦しい会議室で、柔軟な改善提案や新たな発想が生まれるとは考えにくいです。
パソコンの動作が遅くて、事務スタッフの生産性とモチベーションをいたずらに下げているかもしれません。
社員食堂、派遣社員やパートナー会社の常駐スタッフは使わせてもらえない。それにより、プロパー社員とそれ以外の人との間に、心の壁やコミュニケーションの壁を生んでしまっているかもしれません。 トイレの数が少なくていつも混雑。常に便意との戦い。これでは、肝心の仕事に集中できません。オフィス環境にも改善と配慮を。

3.DevOps

DevOps(デブオプス)とは、開発 (Development) と運用 (Operations) を組み合わせた言葉であり、開発担当者と運用担当者が組織の壁を越えてコラボレーションし、より価値の高いITサービスを顧客に提供しつつ組織が継続的に成長するためのカルチャー(文化)を言います。ここではDevOpsが提唱する4つの柱を紹介します。

(1)コラボレーション

組織と個人の成長のための、健全な協力や対立を促進する。非難文化を排除する。

(2)アフィニティ

チーム間の関係を構築し、組織の共通目標を念頭に置いて個々のチーム目標の違いを乗り越え、共感を育て、他のチームの人たちからも学習する。

(3)ツール

ツールはコラボレーションを加速する装置である。

(4)スケーリング

組織の成長や拡大を見据え、プロセスや軸を整備する。

あなたの現場の仕事の進め方が、従来のウォーターフォール型であっても、DevOpsをカルチャーとして取り入れることは十分可能です。
(DevOpsはウォーターフォール型のアンチテーゼではありません)
例えば、既存システムの機能追加が発生する場合、検討プロジェクトを開発メンバー、運用メンバー、ヘルプデスク/サービスデスクメンバー一体のチームで進めてみる。そこにDevOpsのエッセンスを取り入れてみる。このような小規模のDevOps体験をしてみるのも良いでしょう。特に社内システム開発など、影響範囲が社外に及びにくいプロジェクトは絶好の実験場です。チャレンジしてみてください。

4.チャレンジする機会を設計する

新たなチャレンジなくしては、個人も組織も成長しません。
リーダーは率先して、新たなチャレンジに取り組むための時間や予算を確保して、実行してください。それがメンバーの育成につながるのであれば、育成を目的として行うのも良いでしょう。

・このプロジェクトが終わったら、いままでやりたくてもできなかった改善活動に着手する
・今年の売り上げ目標を達成したら、来年は一つ新たな商品を企画して販売してみる

このようなチャレンジの開始条件を明示して、確実に取り組めるようにしてください。
ただし、チャレンジしっぱなしでは組織も個人も成長しません。必ず振り返りをして、成功体験、失敗体験ともに組織のナレッジに変えましょう。

5.目立たない仕事にも光を当てる

日々のオペレーション業務。ともすれば「やってあたり前の仕事」と軽視されてしまいがちです。地道な改善の仕事。成果が出るまでに時間がかかり、なかなか取り組みが見えにくく目立たない。評価されない。それにより、やっている人のモチベーションが下がることも。

・社内表彰する
・トップが感謝や激励の言葉をかける
・社内報で特集する
・人事評価をする

目立たない取り組みや成果こそ光を当て、評価し、担当者が誇りを持って業務遂行できる環境をセットアップしてください。

【図】「を:目立たぬ仕事にこそ、愛『を』」
『職場の問題かるた』(技術評論社刊 作:沢渡あまね/絵:白井匠/CV:戸松遥)より

連載『目指せ、運用デザイナー!〜システム管理者の明日を考える』は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

1人でも多くの運用管理者、そして運用担当者のみなさんが運用デザイナーとして価値向上に取り組んでくださることを願ってやみません。

 

運用をデザインできる人材は、これからの時代、間違いなく価値ある人材として活躍の場が広がります。

目指せ、運用デザイナー!

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筆者紹介

沢渡 あまね(さわたり あまね)
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。


日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネージャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。


現在は複数の企業で「働き方見直しプロジェクト」「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」「業務改善プロジェクト」のファシリテーター・アドバイザー、および新入社員・中堅社員・管理職の育成も行う。これまで指導した受講生は3,000名以上。趣味はダムめぐり。

【ホームページ】
あまねキャリア工房

【ブログ】
・はたらきかた「プチ」改善
・業務改善娘

【主な著書】
「システムの問題地図」
「職場の問題地図」
「マネージャーの問題地図」
「新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!」
「新入社員と学ぶ オフィスの情報セキュリティ入門」(共著)
「ドラクエに学ぶ チームマネジメント」

【連載】
「運用☆ちゃん」(リクナビNEXTジャーナル)
「IT職場あるある」(日経 xTECH)

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