組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第9回:VMOの役割と責任の定義~ソフトウェアやクラウドサービスを提供する海外大手ITベンダーのベンダーマネージャの・・・

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

第9回:VMOの役割と責任の定義~ソフトウェアやクラウドサービスを提供する海外大手ITベンダーのベンダーマネージャのケイパビリティ獲得が不可欠!~

 

目次
VMO はスーパーマンじゃない
組織横断的に存在するベンダーマネージャ

連続して夏日が続いたかと思えば、突然ひんやりと涼しい雨空で冷やされるという、私のような年齢の者には「耐久テストか!?」と言いたくなるような天気が続いています。

前回は、VMO が機能していない組織の課題について解説しました。今回は、VMO やベンダーマネージャの役割と責任をどのように定義・共有し、社内の理解や協力を得るか、という観点から解説したいと思います。


VMO はスーパーマンじゃない

「VMO」 や「IT調達」など“箱” を作って、人を割り当てれば、できるだろうという他人事のようなことをおっしゃる方々が、明確な目的やグランドビジョンを戦略的に掲げないまま「とにかく、やれ!」という号令を出したとしても、具体的に何をどこまでやるべきかを推し量ることは難しいです。
VMO のメンバーとして責務をアサインされたからといって、突然、IBM、Oracle、Microsoft、SAPなど契約書の内容理解から、対象ベンダーのすべての製品やサービスを、その提供モデルとなるライセンス体系を理解した上で、必要となるコントロールの設計や、契約交渉に臨むことができるとしたら、スーパーマンぐらいの超人的な能力の人だけでしょう。残念ながら、多くの人はスーパーマンではありません。つまり、より具体的な職務の内容や、目的、グランドビジョンが提供されていないと、計画や設計を具体的に着手したりアウトソースしたりすることすら困難なのです。

それでは、どのように具体化するべきなのでしょうか?
以下にサンプルとなる手順を挙げてみます。

管理対象のベンダーを網羅的に列挙する
列挙されたベンダーを自社にとっての重要性やビジネスのボリュームで優先順位をつけ、カテゴライズする。(戦略/優先/基本ベンダーなど)
優先順位の高いベンダーの種別を識別する。(SIer、開発、ソフトウェア、ハードウェア、クラウドサービスなど)
対象となるベンダーの関係性を管理するために必要なベンダーマネージャのケイパビリティ要件を定義する。(提供されるベンダーの製品、サービスを全網羅的に理解し、契約体系、ライセンス体系、提供体系などを理解し、コントロールするために必要な情報を集約するなど)
ベンダーマネージャをサポートするための組織としてVMO(Vendor Management Office)が必要となるインフラや統合された業務プロセス、必要ポリシーなどを整備し、組織横断的に存在するベンダーマネージャと協力し、ベンダーマネジメントの成熟化を支援する。

組織横断的に存在するベンダーマネージャ

そもそもベンダーマネジメントがプロジェクト管理から発生し対象となるベンダーをSIer や開発事業者としていた、という話は以前にしましたが、今日の対象ベンダーは、IT環境に存在するソフトウェアベンダーの製品やクラウドサービスを含まざるを得ない状況です。さらに、それらの製品はIT環境においてIT部門が責任を持つべきインフラ系の製品だけではなく、ユーザー事業部門でしか正確に理解や把握ができないような製品をも対象としなければなりません。

例えば、自動車製造業のライン部門で、自動車の設計に用いるようなソフトウェア製品や、品質保証のための「耐久テスト」や「衝撃テスト」などをシミュレーションするようなソフトウェアであれば、IT部門の人間では、それらの要件を正確に把握することはインフラ系のアプリケーションサーバーや、データベースに比べると、より一層困難でしょう。そのような製品であれば、ベンダーマネージャはユーザー事業部門の設計に関わる部門から対象となるベンダー製品への要件を理解した人が適任であると考えられます。そのような製品までもSIerや開発事業者を管理するVMOのベンダーマネージャが担当するのはかえって非効率的になります。そもそも、SIerや開発事業者を担当するベンダーマネージャの要件は、開発やインテグレーションを含むプロジェクトの経験がベースとなります。一方のインフラ系のMicrosoft、IBM、Oracle などは対象となるベンダーの契約書を読み込んだり、契約交渉に必要となる契約体系、ライセンス体系、ライセンスタイプ、クラウドサービスのSLA などを理解したりしている必要があります。つまり、対象となるベンダーによって要求されるケイパビリティも異なり、一人でこれらすべてのベンダーをカバーすることなどスーパーマンの所業でしかないということなのです。

そして、「管理」と名がつくものが今日までは、「後ろ向きな取り組み」とされてきたことにもベンダーマネージャとVMO がおざなりにされてきた原因があると言えるでしょう。

今後のITマネジメントはデジタルビジネスを牽引する中心に存在しなければなりません。クラウドサービスなどに代表されるサービスモデルは「再利用」、「リスクトランスファー」を前提に設計されています。「再利用」や「リスクトランスファー」を可能とするエコシステムを実現するためには、なおさらベンダーを適切に管理、コントロールするベンダーマネジメントのケイパビリティは不可欠です。つまり、IT部門がイノベーションセンターとして機能するために必要なデジタルトランスフォーメーションには、新たなケイパビリティとしてエコシステム構成メンバーのコントロール、つまりベンダーマネジメントは不可欠なケイパビリティなのです。

経営層の理解を得ることは最も困難な課題といえるでしょう。しかし、いつかは取り組まなければならない課題といえます。多くの組織で同じような課題を現場は抱えています。特に日本企業にとって、ボトムアップを期待することは、ある意味「悪しき習慣」と言えるのかもしれません。しかし、「一人じゃない」。社内を説得するのが一番難しいということは皆が持つ共通の課題です。社内を説得する材料などを提供してくれるパートナーは存在します。われわれの組織もその一つです。かく言う私も「明けない夜はない」を信じて長年、耐えながら?取り組んでいますので、同志諸君、ぜひ、前向きな気持ちで取り組んでいきましょう!

国際IT資産管理者協会が提供するCSAM講習では、アウトソーシングを管理するために必要なケイパビリティを獲得するための基礎的な教育を行っています。また、「ソフトウェアライセンス契約管理講習」など、特に VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の詳細などをCSAM資格者のためのフォローアップ講習としても提供していますので、ご利用ください。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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