概要
デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。
猛暑日が続くとさすがに体にこたえます。炎天下のアスファルトを歩いて汗が噴き出したところに、冷え冷えの会議室。
「涼しくて、気持ちいい~」ところが、しばらくすると今度は冷房が効きすぎていて寒くてたまりません。そろそろ夏バテ気味になってきている今日この頃です。
先日、 ITマネジメントスキルに関する研修を提供しているITプレナーズさんというトレーニングプロバイダさんから 、ITIL4 教材の日本語化レビューを依頼され対応しました。仮想企業のストーリー仕立てのビデオを教材にインテグレートしていて、非常に面白く、分かりやすい作りになっており、IT部門の人材育成にとどまらず、経営層も今後のデジタルビジネスを理解する上で、有用な教育だと感じました。特に、ITILサービスバリュー・システムのあたりは、経営層こそ自社のビジネス戦略を考える上で理解するべき内容ではないかと痛感しました。
今回は、ITIL4ファンデーションのサービスバリュー・システムがどのようにデジタルビジネスの戦略に関係し、経営者こそ理解する必要があるのか、という観点から解説したいと思います。
デジタルビジネスの成功のカギを握るエコシステム
前回のコラムでも紹介したとおり、市場変化のスピードに対応してITを利用した新しいサービス製品を創造するためには、すべてを内製化するのではなく、必要に応じてサービスという粒度で連携し、新しいサービス製品を構成するエコシステムが不可欠となります。サービスバリュー・システムの構成要素となっているサービスバリュー・チェーンを中心とした、インプットとしての「機会/需要」、アウトプットとしての「価値」、「従うべき原則」、「ガバナンス」、「プラクティス」、「継続的改善」は、エコシステムであるサービスバリュー・システムの構造を示しています。Microsoft Azure が使用されている場合であれば、Microsoft社はエコシステムを構成するメンバーであり、サービスバリュー・チェーンにおいてガバナンスや継続的改善の対象となるベンダーとなります。ITIL4 では、「組織のサイロの克服」というトピックで解説されていますが、サイロ化すると以下に挙げる最大の課題と直面することになる、としています。
- 情報および専門知識への容易なアクセスを妨げる
- 効率低下
- コスト増加
- コミュニケーション/コラボレーションを困難にする
- 組織が迅速に機会を活用できないようにする
- 一部しか見えなかったり、非公開だったりするため、意思決定が効果的にできない
例えば、Azure に代表されるクラウドサービスはDevOps や IoT など考慮され、迅速性や可用性を担保したり、システムのキャパシティに弾力性を提供したり、サービス連携を容易にしたりする機能を提供しています。しかし、複雑化したIT環境をそのまま移行できるようなクラウドサービスの構成もまた非常に複雑であり、自社戦略を理解し、ベンダーの製品やサービスを総合的に理解した上でパートナー戦略をCIOに提言できるベンダーマネージャが、組織横断的なコミュニケーションにより事業部門とIT開発チーム(社内および社外アウトソース)やIT運用チーム(社内および社外アウトソース)のニーズを理解してベンダーとの契約や関係性のコントロールを実現できないと前述のような課題の解決は不可能でしょう。
一般的には、組織の規模が大きくなるほど作業や責任の細分化により組織のサイロ化がしやすい状態となります。調達機能がシェアードサービスとして分社化したり、ITが子会社化したりすると、一つのサービス製品を提供するために複数のグループ会社やアウトソース先のパートナー企業が多数、関係してきます。複雑化したサービスバリュー・チェーンをコントロールしたり、ガバナンスを実現したりするには、親会社やグループ企業のホールディングス会社が関係者となるステークホルダーすべてに対して、標準として参照可能なポリシーやプロセスを定義し、提供する必要があります。さらに、多様化したステークホルダーの共通言語として通用するフレームワークを部分的ではなく、ホリスティックに参照し活用を推進することも重要となります。
部分最適と全体最適
前述のように、デジタルビジネスにおけるエコシステムは、部分最適ではなく、全体最適が不可欠であると言えます。ITIL4 のベストプラクティスやフレームワークは組織全体、あるいは、サービス製品に関係するすべてのステークホルダーによって共通言語として理解され、共通の目標を達成するために継続的改善に取り組まれなければなりません。サービスを定義するライセンス契約や、クラウドサービス契約などが、ベンダーマネージャによって企業戦略と整合のとれた状態としてサービス製品の品質を担保できるようにするために、全体最適を可能とするための経営層の理解と支援は、今後のデジタルビジネスの成功にとって必須の要素となるでしょう。
そう考えると、デジタルトランスフォーメーションは、複雑化するIT環境や、IT環境を定義する様々な契約の複雑性を経営層が理解し、そのコントロールに携わるすべての関係者に理解と支援を提供することから始めるべきではないでしょうか。
経営層やデジタルビジネスのすべての関係者がITIL4 ファンデーションを受講し、デジタルビジネスにどのようにアプライするのかを議論することで経営層の理解が高まり、「運用部門でどうにか帳尻を合わせてくれ」という過去の幻想が払拭され、コントロールされたバリューチェーンによる共創が市場競争力を高めることになるでしょう。
「DXを推進せよ!」と号令をかけている経営層にITIL4 ファンデーションの受講をお勧めします。
国際IT資産管理者協会が提供するCSAM講習では、アウトソーシングを管理するために必要なケイパビリティを獲得するための基礎的な教育を行っています。また、「ソフトウェアライセンス契約管理講習」など、特に VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の詳細などをCSAM資格者のためのフォローアップ講習としても提供していますので、ご利用ください。
以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。
再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。
IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf
IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx
国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/
連載一覧
筆者紹介
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師
IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。
【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)
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