組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第13回:Oracleライセンス監査の交渉に備える

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
2019年 OMA(Oracle Master Agreement)の変更
LMSスクリプトとは?
LMSレポートは正確か?
交渉のステップ
ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング

つい先ごろまで夏日と言われていたのに、急に気温が下がり、過ごしやすい秋をスキップして、あっという間に冬になってしまったような今日この頃です。ところが海水温は相変わらず高いため、残念なことにまだ台風は来るようです。年々、夏の気温は高くなり、台風が強くなっています。自然の力にはあらがえないところも多々ありますが、我々にできる限りのことは備えておきたいものです。

さて、備えるといえば、先ごろOracle社はLMS(License Management Service:https://www.oracle.com/jp/corporate/license-management-services/)の体制変更や、パートナー監査など、ライセンス監査の活動の強化ともいえる発表をしています。今回は、監査活動がますます活発になると考えられるOracle社の監査に対して、どのように備えるべきかについて解説したいと思います。


2019年 OMA(Oracle Master Agreement)の変更

Oracle 製品 のライセンス契約の条件は、OMA や Ordering Document といわれている発注情報で定義されていますが、2019年のOMA には監査項目において「Oracle社が提供するLMSスクリプトを使用してデータを提供すること」と条件が追加されています。今までもLMSという監査チームが提供するLMSスクリプトを使用して「インベントリ情報を提供してください」という依頼はあったものの、OMA には明確に定義されていなかったので、任意で協力するというものでした。

しかし、2019年のOMA にはLMSスクリプトを使用したデータ提供が義務付けられる条件が記載されるので、この条件を交渉して削除しない限り、ユーザーはLMSスクリプトを使用してデータを提供し、その他の情報も要求に応じて提供しなければならなくなります。

LMSスクリプトとは?

Oracle社にはLMS(License Management Service)という監査チームがあります。このチームが監査の際に使用するデータコレクションツールに「LMSスクリプト」というOracle社の製品情報を取得するためのスクリプト群があります。これらのツールを使用することで、インストールされたOracle製品のバージョン、エディション、使用しているオプションなどの設定情報が収集されます。

これらのツールで収集された情報と、ヒアリングなどをもとにユーザー環境で運用されているOracle製品のライセンス消費状態を把握して、コンプライアンスの状態を把握し、不足するライセンスについて監査レポートを提供する活動をしているのがLMSというチームです。

LMSレポートは正確か?

Oracle社はVMWare などのSoft-partitioning 技術を、ライセンス消費を決定する技術として認めていません。つまり、VMWare などの環境では、Oracleライセンスの消費は環境にあるすべてのプロセッサを対象にパーペチュアルライセンス[永久ライセンス]が要求される可能性があります。そしてLMSレポートは、そのような環境においてのライセンス消費の最大値が調査結果として報告される可能性が高いということです。

これに対してユーザーは、実際の保有ライセンスを契約のたな卸し・Ordering Document のたな卸し・実装環境の整理などの情報をもとに、自社環境とOracleライセンスの運用状態・Oracleライセンスの稼働によるメリットなどを考慮して、請求される監査ライセンスや提案を検討して交渉し、妥当と考えられる条件や金額で折り合いをつける努力をしなければなりません。

交渉のステップ

自社のOracleライセンス契約およびOrdering Documentすべてをたな卸しし、レビューする。
LMSスクリプトと同等レベルのたな卸し情報を用いてたな卸しする。または、すでにLMSスクリプトによるLMSのたな卸しが進行している場合は、結果データのレビューを自社で実施する。
LMSによるライセンスポジションのレポート報告と自社の見解の差分を把握し、交渉に備える。
Oracleベンダーマネージャまたは外部の専門家と相談し、LMSスクリプトデータのレビューおよび交渉戦略を検討する。
戦略とデータ、仮想環境における制御計画をもとにLMSチームとLMSレポートを最終化するための交渉を実施する。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング

グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。

日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」など、グローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

国際IT資産管理者協会が提供するCSAM講習では、アウトソーシングを管理するために必要なケイパビリティを獲得するための基礎的な教育を行っています。また、「ソフトウェアライセンス契約管理講習」など、特に VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の詳細などをCSAM資格者のためのフォローアップ講習としても提供していますので、ご利用ください。

以下に、IT資産管理システムのRFI/RFPのポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。

再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。

IT資産管理システム RFPたたき台 基本要求事項http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf

IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx

国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/

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コメント

筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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