連載第3回となる今回の記事からは、auカブコム証券に2020年4月誕生したSREグループの生い立ちについて、「なぜこのグループが誕生したのか」という背景について経験談を踏まえてご紹介していきます。
前編では、2019年に当社の運用部門が抱えていた課題をはじめ、その課題に対して現場がどのようなアプローチで改善を目指していたかを、実際に作成していたロードマップをお見せしながらご紹介します。
最初に正直にお伝えすると、「SRE」というグループのかたちをあらかじめ目指し、計画に計画を重ねた結果、今のチームが誕生したといえば格好いいのですが、実際は、当時直面していた様々な課題に対して、試行錯誤しながら改善を進めた結果、今のチームの方向性が少しずつ固まっていったというのが本当のところです。
2019年、当社の運用部門の中では「今のやりかたではいけない、なにか変わらなければ」という切実な問題意識を持っていました。今までの組織の在り方を見直す取り組みを始めようという思いから、2つの強いモチベーションがあったのです。まずはこちらを紹介していきます。
1. システム品質の見直し
2. 運用業務のプレゼンスを高めたい
●1.システム品質の見直し
組織の在り方を見つめなおす最大のモチベーションはシステムの「品質」でした。
当社が抱えていた当時の課題を理解していただくためにも、少し会社の歴史についてご紹介させていただきます。
auカブコム証券は、インターネット専業の証券会社として1999年に設立されて以来、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)におけるネット金融サービスの中核にあり、「顧客投資成績重視」を理念として事業を展開してきました。
2019年で創業20年という節目を迎え、「auカブコム証券」に生まれ変わった当社は、MUFG×KDDIグループのデジタル金融企業としてまさに新たな成長を加速させようとしていたのです。
創業20年にして第2の創業ともいえる重要な転換点を迎えている時期を控えた2019年のある日、証券取引サービスの中核を担うシステムにて、多くのお客様へ影響を及ぼしてしまう大きな障害が発生してしまいました。
ネット証券として、以前よりシステム品質改善の取り組みは行われていましたが、この障害をきっかけに、改めてネット証券としてお客様に安心してお取引をしていただくために、「どのように品質を高めていくかが最重要課題」として、今までの運用の在り方を見つめなおすことが必要となりました。
会社の中でシステム運用の品質に対する温度感が急速に高まり、経営層から運用部門が求められたのは、「システムの設計段階からプロジェクトに入り込み、リリース後の運用を見据えた設計をしっかりと実施すること」でした。
ただし、この期待に対しては、リソースなどを踏まえつつ、実現させるための戦略に落とし込む必要がありました。創業20年の間、サービス拡大・機能追加を継続してきたため、サーバ台数は1000台近くに増加しており、その一方で、運用部門は当時社員4名体制。日々目の前にある運用業務を遂行するだけで疲弊してしまうという現実がありました。
●2.運用業務のプレゼンスを高めたい
組織の在り方を見つめなおす、もう1つのモチベーションは「運用」という業務のプレゼンスをより良いものにしていきたい、という現場の思いでした。
どこの会社でも同じだと思うのですが、運用業務はミスなくこなして当たり前と考えられており、ミスが、お客様、或いは会社の損失に直結する場合が多々あります。また、当社の運用の特徴として、扱うシステムの範囲が非常に広いため、ひとくちに「運用をやっています」といっても、他の部門からは、「具体的には何をやっているのか見えにくい」、という実情がありました。
さらに当時はシステム運用障害件数が一定数、継続的に発生しており、運用部門が評価されにくい状況となっていました。
運用部門の社員全員が、「このままではよくない」そう感じていました。
●重要なのは自分たちでゴール(目標)を考えること
「品質改善」と「運用業務のプレゼンス向上」
―何か変わらなければ!と考えた私たちは、まずチームの課題を正しく知るために、メンバー全員10名(当時のパートナー企業メンバーを含む)で会議室に集まり、各々の抱えている課題を付箋に書き、ホワイトボードに張りだしました。
ホワイトボードに課題を張り出したあとは、1つ1つの課題を掘り下げていき、カテゴリー別に分類。一通り課題を整理した後は、課題に対する改善策や今後の目標の話を進めていったのです。「将来的に運用部門としてどういう風になっていきたいか?」という点について、一人ひとり意見を出しあいました。実は当時の話し合いの段階で、「SRE」も登場していましたが、あくまで当時はキーワードの1つでしかありませんでした。話し合いでは度々議論が深まり、メンバーそれぞれのキャリアのビジョンについて、共有し合うことも。1時間半ほどの会議を全8回実施と、時間をかけて課題や目標を整理していったのです。
なぜ、ここまで最初の話し合いに時間をかけたのか?それは、「チームの目標は、現場のメンバーで話し合って作り上げる、ボトムアップ型であることが非常に重要」という当時のマネジメントの思いに加え、一人ひとりが課題を自分事と捉え、「チームがどうなっていたいのか」を考えること、それ自体が大きな一歩だと考えたためです。
実際、話し合いを通じて課題への共通認識は深まり、互いに考えの理解も深まりました。ただ、「チームのゴール」を考えると、度々抽象的な話になることもあったため、話し合いの中では、3年後のチームのゴールを掲げたうえで、半年後、1年後に、カテゴリー分けした課題が、「具体的にどうなっていたいのか」という点について、よく考えることを意識していました。
課題ごとの改善アプローチを考え、それぞれに対して、「具体的に誰がどう動くのか?」「その人はどんなモチベーションでやるのか?」「その人たちはどうなったら評価されるのか?」といったことを明確にしていきました。さらに、その改善が結果的に、部の目標、さらに会社の組織目標に寄与できる成果となれば、経営層から求められている姿に少しずつ近づける、と考えました。
当時、運用のコンサルティングとして2017年から当社に携わっていただいていたユニリタ社の方にも、目標へのアプローチを具体的に落とし込むところ、話し合いの推進、アウトプットの取り纏(まと)めをサポートしていただき、最終的に1枚の資料に、「目指すチームの未来の姿」と「各課題への改善アプローチ」をロードマップとしてまとめることができました。
図1 2019年の運用ロードマップ
チームの思い、1年後、3年後の目指す姿などがまとまっており、この資料によって、品質改善へのアプローチはもちろんのこと、「なにをしているチームなのか見えにくい」という課題についても少しずつ理解を広めていけるという手ごたえをもつことができました。
この章のタイトルで「重要なのは自分たちでゴール(目標)を考えること」と記載しましたが、これは、「メンバー全員で集まって行った、チームのビジョンについての話し合い」こそが、今のSREグループができるまでの、大きな一歩となったからです。
チームの目指す方向性に全員が納得感をもっていないと、活動は継続できません。長期的にわたる改善には、ファーストステップで必ずこの「納得感」が必要です。
チームが変わる一つのきっかけにすぎなかもしれませんが、もし、「このままではいけない」と日々感じておられる運用のご担当者様がおられましたら、ぜひメンバー全員で集まってチームの未来を考えていただくことをお勧めします。
さて、ロードマップをまとめた後は、日々の業務の中でいかにこの活動を継続して、さらに活動経過を周囲にしっかりとアピールすることが大切です。次回の記事では「auカブコムSRE ができるまで~後編~」と題し、ロードマップ策定後のチームの取り組みからご紹介していきます。1年間でつかんだ手ごたえ、チームの活動が少しずつ周囲に認められるようになった話、そして新生SREとして作成したロードマップについても詳しく記述していきます。
ぜひ後編の記事にも目を通していただけますと幸いです。
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筆者紹介
2011年FX専業の会社に入社し、金融業界に進出。システム担当として各種サービスの設計、構築、保守、運用に広く携わる他、お客様対応、当局対応にも深く関わり、2015年にシステム責任者に就任。対顧サービス完全クラウド化など、多岐に渡る主要プロジェクトを歴任。
2019年スキル拡張を目的とし、auカブコム証券に転職。初年度実績を評価され、本年4月より技術部SREグループ長に就任。チームビルディングの傍ら、auカブコム流SREを体現。SREロードマップ実現に向けて邁進。
太田有美(おおたゆみ)
2016年auカブコム証券会社に新卒入社。2017年よりシステムインフラ部署でサーバ設計構築を担当。2020年4月に新体制であるSREグループ発足により、初期SREメンバーとして活動。旧運用チーム時代から新SREグループ誕生の過程で運用高度化を実感した経験を生かし、当社の体験をコラムでわかりやすくお伝えできるよう邁進中。
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