概要
デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。
緊急事態宣言の延長が発表となり春までは巣ごもり生活を余儀なくされそうです。この一年間、外を歩く機会も制限され、家にこもって運動不足になる一方でリモート会議への参加で終日座りっぱなしで下半身の筋肉が衰え、お尻の筋肉が固まり、ついに先週「ぎっくり腰」をやってしまいました。(涙)
30代、40代でも何回かは経験しているので、十分に注意して運動不足や下半身を固めないように運動をしてきたつもりでしたが、10年ぶりぐらいでしょうか、今までに無い悪い状態でやってしまいました。回復にはおよそ一週間かかってしまいました。以前は、鍼治療に行けばほぼ回復したのですが、今回はそれでも数日は痛みがのこる状態が続いてしまいました。寄る年波には勝てないということでしょう。ますます注意して、健康状態を維持していきたいと思います。さて、コロナ禍で多くのベンダーは苦労していますので、1990年台に言われるようになった「経済が悪くなると監査が増える」から始まり2000年台には「監査は最も効率の良い営業活動」という流れは変わらず、監査をてこにした営業は増えると考えた方がよさそうです。そんな中で、本コラムではご相談をいただくお客様の課題として毎回あがるポイントの一つである「使用者の定義」の課題を解説したいと思います。
ライセンス契約における使用許諾先の定義
ライセンス契約書は、それぞれのベンダーによりその構成や使用許諾条件の明文化などの範囲が異なります。例えば、Microsoft社の MBSA/EA/EA加入という構成の契約の場合は、使用許諾先の定義はEA加入契約においてプロアクティブに問われる内容ですが、Oracle のライセンス契約においては購入者としてユーザー登録されている組織が「使用者」として識別されている場合は、そのライセンスの使用許諾は「社内の業務」に限定されますので、購入者として記名されている組織に限定されます。
つまり、親会社やホールディングスがライセンスを購入し、組織全体で使用するのであれば、対象組織を使用者のスコープとして定義して明文化しなければ、ライセンス違反とみなされてしまうのです。ライセンスを購入する際の契約においては、そのシステムの利用形態や対象ユーザーを正確に把握し、どのような使用許諾の定義を求めて明文化しなければならないのかをコントロールするのはユーザー組織しかありません。代理店やベンダー営業の理解レベルも高くない場合が考えられますので、ユーザーが主導権を握り、プロアクティブに定義と明文化を交渉して獲得することが求められます。
購入する際の交渉は、値段交渉ではなく「必要な定義を交渉すること」が最も重要
ライセンス使用権は、どのような契約の使用許諾条件に基づくかによりライセンスの消費やライセンス違反が大きく異なります。例えば、100社のグループ組織で構成される企業の親会社が購入したライセンスをグループ内の組織全体がアクセスするシステムで使用する場合、システムにアクセスするすべての組織に使用許諾されたライセンスが必要となりますので、「使用者(ライセンシー/サブライセンシー)」の定義にはこれらの対象が定義されていなければなりません。
通常、ライセンス購入時の交渉においてこれらの組織を対象として定義していれば、ライセンスの許諾対象として「ライセンシー」、「サブライセンシー」のスコープにはいる組織の使用権を獲得することが可能です。しかし、これらの定義が無い場合は、後に使用権をすべての組織で改めて購入しなければならない可能性もでてきます。
多くの場合、ベンダーのライセンス契約の使用許諾条件は数多くの「制限」で構成されています。
「契約交渉」とは、これらの「制限」をどのように拡大し、自社のニーズにマッチした制限の「定義」を契約書内(Ordering Documentなど発注書の使用許諾条件において)で明文化し、解釈の余地なくライセンスコンプライアンスを順守することができる状態を獲得することをいいます。
そのためにはベンダーが提供するライセンスの使用者に関係する制限や選択肢を理解することが重要です。もちろん、ULAなどのような包括契約も同様に「制限」がありますので、制限を理解して交渉しなければなりません。
自社のライセンス運用状態の把握を
ライセンス契約のレビューは、前述のポイントを含め現時点での契約の使用許諾条件を棚卸しし、実際の運用状態の実態と照らし合わせて、そのライセンス使用許諾条件との齟齬(そご)が発生していないかどうかを確認するライセンス契約分析が不可欠です。その情報をもってELP(Effective License Position:有効ライセンス状態)を把握し、是正措置が必要なライセンス契約や運用環境などの対策を検討することが求められます。
より正確な現状把握を行い、契約の条件を洗い出し、それらの定義が実際の運用ニーズを充足しているのか否かを把握することが重要です。そのうえで、使用許諾条件の解釈に基づいた是正を運用環境において実施したり、契約交渉により契約条件の改善を計画したりすることが可能となります。
この場合、状況によっては2-3年 の実行スパン、あるいはそれ以上が求められるケースもありますので、早めのリスクアセスメントと、状態把握が好ましいでしょう。
ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。
これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。
日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。
連載一覧
筆者紹介
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師
IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。
【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)
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