概要
業務可視化と継続的改善のための方法論であるBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)をシステム運用領域に適用し、網羅性・検索性の高い業務フローの作成方法や、描かれた業務フローを対象にした業務改善の検討方法などをご紹介し、そのノウハウを身につけていただくとともに、属人化しやすいシステム運用業務の透明性を保ち、ベテランからの技術伝承や若手人材のスキルアップ・上流化につなぐ可能性を検討します。
- 目次
- 必要とわかっていても、その時間がない
- 若手の方がうまくいく
- 対象業務の選定
- 業務マニュアルの整備へ
- 業務規程や判断ルール
- テンプレート
- 操作マニュアル
- 業務手順書やチェックリスト
- まとめ:業務フローの作成は若者に託そう
必要とわかっていても、その時間がない
「システム運用に活かせる業務の可視化と改善手法」と銘打って、業務の可視化と改善の進め方について、連載で一通り解説させて頂きました。本編が最終回となります。ここまでで「何をすべきか?」についてはご理解頂けたのではないかと思います。しかし、「では今日からやってみましょう!」 と言っても、その時間が取れないというのが実情なのではないでしょうか。
第1回でご紹介した通り、システム運用に従事している方は、そのスキルが高ければ高いほど、現場から離れにくいことが一般的です。属人化の排除・業務可視化の推進に賛同頂いたとしても、日々の運用、保守対応、障害対応から完全に離れることは出来ません。そこで、お勧めしたいのは、「若手の教育の一環として、業務の可視化を任せてみる」という方法です。
若手の方がうまくいく
筆者が業務可視化をご支援した事例についてお話しします。売上3兆円規模の巨大企業です。その基幹システム再構築に向けて短期間に業務フローを揃える必要があったのですが、アサインされたのは新卒〜3年生くらいまでの若者達でした。業務を可視化しろと言われても、まだ業務を知らないので描ける訳もありません。しかし、そのことが逆に功を奏したという話です。うまくいく理由を箇条書きで挙げてみます。
● 若手なら教えてあげようという心理が働き、周りの社員が協力的になる
● 本人達には早く業務を知りたいという欲求があり、意欲的に推進してくれる
● 現状業務に対する思い込みが少なく、客観的な可視化になる
● 組織間の壁や過去のシガラミにも無頓着に切り込んで行ける
● 広く業務を知り、可視化や改善のスキルを身に付けることで将来的に有望な人材に育つ
先の事例は約10年前の話ですが、そこで活躍した若者達も今では導入された基幹システムのことを一番分かっているコアメンバーとなり、各職場で頼られる存在になっています。一方で、その当時は現行システム保守から手が離せなかったベテラン勢も、かなり精力的に時間を作り、若手へのアドバイスや、作られた業務フローのレビューにあたっていらっしゃいました。そろそろご隠居の頃ですが、非常にうまく人材の新旧交代が果たせた事例だったのではないかと思います。
対象業務の選定
よし、じゃあ若手にやらせよう! と決めたとしても、部門の業務を片っ端から可視化させるという進め方は、あまりお勧めしません。それでは「可視化が目的」になってしまいます。今、優先的に可視化すべき理由がある業務を選び、その業務に対する改善サイクルを回してみてから、次の業務へ進むようにして下さい。可視化ばかり先行させると、それだけで疲れてしまい、若手まで意欲を失ってしまいかねません。次のような業務を対象とするのが良いと思います。
● 定型化が不十分と思われる業務
● 月末月初に負荷が集中する業務
● 新規配属や異動などにより人が入れ替わる業務 (引き継ぎついでに改善)
部門内でこれらに該当する業務を1つ選び、月に1本ずつ業務フローを可視化し、改善を回すといったペースがお勧めです。定型化が不十分とは、逆に言えば「非定型だと思い込んでいる」ような業務のことを指します。例外だと言いながら毎月のように発生している仕事は、もはや例外ではないはずですので、そろそろ定型化して効率を改善する方が良いでしょう。月末月初に負荷が集中する業務は、その前工程を調査し、負荷を出来るだけ前倒しにして平準化することを考えます。人が入れ替わる業務は、もちろん引き継ぎのためになりますが、そのついでに課題を洗い出し、新任の方に改善を託してみてはいかがでしょうか。
システム刷新のため、内部統制のため、などという理由が直近で該当する場合は、始め方に悩む必要はないと思いますが、そのようなイベントが直近に予定されていないという場合、上記をご参考に対象業務を選定してみて下さい。
業務マニュアルの整備へ
折角、業務フローを作成するのなら、もっと細かい操作マニュアルや手順書類も一元的に管理し、部門内で共有できるようにしたい、と思われるのが自然です。属人化からの脱却や、再び属人化してしまうことへの防止策にもなります。業務フローと業務マニュアル類との関連付けは、下図のような構成で整備してゆくと良いと思います。
業務規程や判断ルール
決裁権限規程など、会社として守るべき業務規程が該当する場合には、企業としての公式文書に対して「判断基準」のオブジェクトからリンクします。ドキュメント管理システム (Sharepoint等) で改版を管理している場合には、そのドキュメントのURLを設定しておけば、常に最新版にリンクされるので便利です。部署内のローカルな判断ロジックなども、デシジョンツリーやDMN (Decision Model & Notation) などの表記法で可視化しておくと属人化排除に繋がります。
テンプレート
業務のインプットやアウトプットとして、ドキュメントのテンプレート(雛形)が用意されている場合には、その公開フォルダに対してリンクをしておくと良いでしょう。契約書雛形、見積書フォームなどが該当します。いつも過去の実物をコピーして作っているという話をよく耳にしますが、そのような運用は、コピーを繰り返すうちにバリエーションが増えてゆく原因になります。雛形がありそうでない、という状況に気づいたら、オリジナルの標準型を特定し、常にその標準を改善して展開するようにしましょう。
操作マニュアル
画面オブジェクトからは、該当するシステムの操作マニュアルをリンクします。昨今では画面を操作すると自動的にレコーディングして操作マニュアルを作成し、WebブラウザやPDF形式で簡単に共有できるサービスも増えてきています。システム画面は更新されることも多いと思いますので、出来るだけ簡単に作り直せて、すぐに共有できる手段が適切です。
業務手順書やチェックリスト
業務ステップについての詳細な手順やTips、仕事の完了条件を確認するチェックリストの作成には、Confluence、Nortion、Evernote、Googleドキュメントなどのように、Webブラウザで共有できるタイプのドキュメントツールが良いでしょう。「ファイルにしない」ことも属人化排除のコツかもしれません。システム運用のベテランは、上記のようなノートアプリをうまく活用し、自分のノウハウを手元で整理されている方が多いと思います。それをチームに共有してもらうと、さらに深みが増します。
このように、業務の大枠は業務フローによって、5W1Hを定義し、一段詳細の情報は各種ドキュメントを型化することにより、業務情報を体系的に蓄積・共有することができるようになります。これらの整備も含めて若手に託してみてはいかがでしょうか。若手の先輩から後輩へ、業務プロセスの可視化と改善手法が受け継がれてゆく形になれば、組織としての文化にも繋がってゆくでしょう。
まとめ:業務フローの作成は若者に託そう
業務の可視化や課題検討は若手にとっては良い勉強になり、ベテランがこれを指導することで技術伝承にも繋がってゆきます。背中を見て覚えてくれる時代は過ぎていますし、リモートワーク主流になると背中を見せることもできませんので、業務を可視化するというスキルは今後ますます重要になってゆくものと考えています。実際にやるのは大変なことも事実ですが、皆様がはじめの一歩を踏み出すのに本連載シリーズが少しでも役に立てば幸いです。ありがとう御座いました。
補足
本連載シリーズでご紹介した各種の手法は、株式会社ユニリタが提供する業務改善ツール Ranabase (ラーナベース) で実践することが出来ます。また、その実践のための教育やアドバイスサービスもご提供しています。ご興味があれば是非下記のWebサイトにお立ち寄り下さい。
RanabaseのWebサイトはこちら: https://lp.ranabase.com/
連載一覧
筆者紹介
著書:「正攻法の業務改革」(現代書林)
Ranabase製品サイト: http://lp.ranabase.com
仕事を可視化し、継続的に改善する方法を学べるブログ “カエル塾” : https://kaerujuku.jp/
1972年生まれ 株式会社ユニリタ クラウドサービス事業本部 ビジネスイノベーション部 部長、当部が運営・提供する業務の可視化・改善・共有ツール Ranabase (ラーナベース) のプロダクトオーナー。大学卒業後、ERP導入に従事、プリセールス・企画・設計・アドオン開発・データ移行・AP保守などさまざまな工程・業務領域を30代前半までに経験し、そのうちPMを務めた一社では稼働後約15年間にわたりAP保守を担当、2回のハードウェア入れ替えと1回のソフトウェアバージョンアップを果たしたが、そのノウハウが完全に自分一人に属人化したという経験を持つ。2000年にはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)分野のコンサルティングに転向し、国内へのBPMの普及・展開を推進、システム運用を属人化させないことと、ユーザー企業が自ら継続的に業務プロセスを改善してゆける姿を模索する日々を過ごす。仕事上のテーマは変わらないが所属先は転職・買収・事業移管等を経て2015年にユニリタへ、他社製のBPMツール活用では飽き足らず2019年からBPMツールの自社開発に着手、現在に至る。
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