組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第36回:Oracle ULA終了準備! ~ULA包括契約終了に向けて、今なにをするべきか?~

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

目次
ULA終了準備最初の一歩
契約書のレビュー

コロナ禍で十分に苦しい状況にもかかわらず、ロシアの状況、コロナ禍とロシアに起因する米国の経済、米国金利上昇による円安など、これでもかと苦しい状況に拍車がかかる今日この頃です。「泣きっ面に蜂」とはこのことかと言いたくなります、ほんとうに。先行きが不透明ではありますが、日本としてはこれらの状況に惑わされることなく、将来を見据えてDX を推進し安定した経済成長のための改革を目指していきたいところです。
さて、今回は、このところULA(Unlimited License Agreement:包括契約)の契約終了における証明プロセスなどで、どのようなポイントに注意するべきかというご相談を多くいただいていますので、いくつか注意点を解説したいと思います。


ULA終了準備最初の一歩

ULA の Exit (満了時のタイミングの契約終了)においては、「契約内容をよく理解する」ということにつきます。これが簡単なようで、実際は非常に困難なのです。なぜならば、契約内容とはOMA(Oracle Master Agreement)や、ULA のOrdering Document の使用許諾条件を網羅的に理解する、ということだからなのですが。これが実現されている組織が非常に少ないのです。OMA の難しさは、URL や関係文書において定義される使用許諾条件の複雑さであることは以前のコラムでも解説しています。OMA は、ユーザー毎に違いはないのですが、使用許諾条件の解釈はユーザー環境によって異なるので注意が必要です。さらに、ULA の Ordering Document における使用許諾条件はユーザー毎に異なるので、これらの使用許諾条件を正確に理解し、遵守する必要があります。欧米では、このULA の使用許諾条件への遵守で失敗してExit できないユーザーが少なくないと言われています。そのような場面で欧米でよく言われるのが「The devil is in the details.」(細かいところに落とし穴)です。

契約書のレビュー

特に重要なのは、ULA の Ordering Document をしっかりとレビューして理解し、チーム全体で共通の認識を確立することです。使用許諾先国、使用許諾先組織、製品、エディション、ライセンスタイプなどから、Ordering Document で定義されるすべての条項をしっかりと理解し、コンプライアンスの条件や証明プロセスの条件などを正確に理解した上で、Exit に関係するチーム全員の共通の理解を確立し、役割と責任を定義して終了計画を設計することです。
本来は、VMO(Vendor Management Office)やベンダーマネージャがこれらの責任を持ちますが、それらの役割と責任が定義され、体制が構築されていない場合は、役割と責任や体制から定義し、「契約書の理解の責任」は誰にあるのか、「能力」は担保されているのか、からしっかりと見極めることが大切です。
ULA の Ordering Document の使用許諾条件を網羅的に理解していないチームが「なんとなく」でExit の準備を行い、役割と責任だけを負わされるのはデスマーチへの一歩と言わざるを得ません。必要であれば「専門家」に相談してください。
レビューに必要なメンバーは以下の通りです:

  • ① ULA のOrdering Document におけるライセンス定義および使用許諾条件定義がどのような経緯でなされたのかを把握している人
  • ② ULA で定義されたライセンスの自組織のライセンスニーズを理解している人
  • ③ ULA で定義されたライセンスの自組織の実装状態、運用環境、ライセンスの消費状態を理解している人
  • ④ OMA/ULA の条項を読んで内容を正確に説明し、共通の理解を確立することができる人

多くの場合、①から③までは自組織内部にいる誰かが責任を負わなければなりません。一方で④ については自組織にはベンダーマネージャがいない、という場合は外部の「専門家」を利用します。④ はベンダーマネージャの役割と責任であり、④ の「能力」を担保することで、①から③の現状からコンプライアンスの状態やExit の戦略を設計することが可能となります。
どのベンダーのライセンス契約も複雑化が進んでいるので、理解することは難しいことではありますが、不可能なことではありません。体制、役割と責任、能力を担保し、正しいアプローチによりプロセスを設計しコントロールすることで、しっかりとライセンス契約などのガバナンスコントロールを得ることが可能です。

ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。

これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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