第一回は、「DX推進の必須条件!デジタルより大事なたった1つのこと」で、「まずは社内に数名のDX推進に対応できるリーダー人材を育成しましょう。」ということをお伝えいたしました。
そして、「革新性・創造性」「実現性・計画性」「生産性・付加価値」「継続性・人材育成」「共創・顧客視点」という5つの基礎能力を示しました。
ここでは、「DXで新たに価値を変革、創造していく」ことについて示していきます。
DXは変革です。
変革を推進するDX推進リーダーは、創造性や革新性をどのようにして身に付ければいいのでしょうか。
まず大切なことは、変革や創造の先にあることを考えてください。デジタルを活用して革新的なビジネスモデルを作ることがDXです。そのためには何が必要でしょうか
ビジネスモデルの創出は、会社の戦略そのものです。会社の戦略の立案は大企業であれば経営企画部などが立て、社長が承認するでしょう。中小企業であれば戦略は社長が立案します。
大企業であれば、多くの人材のうちからビジネスモデルを創出できる対象者を選ぶことができるでしょう。または見込みのある従業員にデザイン思考などの教育を行い、育成することができるでしょう。
ということは、創造性や革新性を身に付けるには、社長が実践するか、社長の思考を理解し、そのうえでビジネスモデルを創出できる方がDXを推進するべきなのです。
大企業であれば経営企画部が戦略を立案します。中小企業の場合は、DX推進リーダーには、社長から、企業の将来の方向性についてよく話をする必要があります。少なくともまずは同じ方向を向く必要があります。
その後、DX推進リーダーが、自社の戦略と将来の方向性を見据えて、DXはこの方向や方法があると社長に進言するべきです。
ではこの時、戦略や方向性をどのように導き、DXの方向性をどのようにして決めれば、良いでしょうか。オーソドックスな方法は、SWOT分析を行い検討します。このうち、特に強みにフォーカスをあてその強みを分解していくことをお勧めします。
そして強みを活かして、「共創・顧客視点」のところで示したように、顧客の思考に立って、顧客の問題点を解決するにはどうすればいいかということをいつも考え、何度も考え抜くことが重要です。
石焼き芋屋のDX
以下で少しわかりやすい事例を示します。
一つ目は京都の石焼き芋屋のDXです。
石焼き芋屋というと、「いしやーきいも」という拡声器からの声を聞く移動販売車をご存知でしょう。このDXです。この事例の石焼き芋屋の強みは、
1.美味しいお芋を仕入れて、ほくほくの焼き芋を提供できること
2.移動しながらお客様の近くで販売すること
です。
強みの1つ目である美味しいお芋は、徳島の「紅はるか」や「赤箱シルク」など京都の市場にはあまり出回らないものを仕入れています。
強みの2つ目であるお客様の近くで販売できるというのは、車で移動するからです。
ところが、この移動して販売できるという部分は強みですが、弱みにもなります。
なぜ弱みになるかというと、この石焼き芋屋が来たということを知るのは、「いしやーきいも」と声が聞こえたときです。石焼き芋を食べたいのに、音楽を聴いていたり動画を見ていたりするときであれば、「いしやーきいも」の声が聞こえてくるのは、石焼き芋の移動販売車が、ごく近くに来た時かもしれません。この時石焼き芋屋が来たから買いに行こうとして外へ出てみると、もう行ってしまったということが起こるでしょう。
石焼き芋屋は、お客様の近くに行って提供できるのにもかかわらず、お客様から離れてしまい販売機会を損失しています。お客様からすればいつ来るのか分からないということが問題です。
この問題点を解消するために、この事例の石焼き芋屋は、今いる場所やこれから行く方面の情報をTwitterで提供することにしました。
(出典:https://twitter.com/take_yakiimo)
お客様はこの石焼き芋屋のTwitterをフォローしておけば、今日は近くに来るのか来ないのか、もうすぐ近くに来るのかなどが分かります。
また逆にお客様から石焼き芋屋に、「自分の家の近くにも来てほしい」というダイレクトメッセージを送ることができます。
これで変革なの?と言われれば疑問かもしれません。しかし、これまで取りこぼしていたお客様、つまり「「いしやーきいも」の声を聞かなくても買っていただけるお客様」を取り込むができています。さらにお客様とのコミュニケーションができるようになりました。これによって販売予測が立てられます。
販売機会の損失を抑え、新しいお客様を取り込み、販売予測を立てられるようになった。大きな変化ではないでしょうか。
ところで、この石焼き芋屋は、「革新的な石焼き芋屋になろう」や「創造的に考えて石焼き芋を提供しよう」と考えていたわけではありません。お客様から、「いしやーきいも」の声が聞こえなかったから買えなかったよ、と言う困りごとに対して真摯に考え、デジタルでどうすれば良いかと考えた結果、位置をお知らせする方法を考え付いたということです。
これは、日々Twitterやスマートフォンに触れているなかで、これで位置をお知らせすればいいのではないかという発想に至ったことがポイントです。
ここが創造性です。お客様により利用しやすいサービスを届けることができる方法は何か?をいつも考え、何度も考え抜くことでTwitterが使えるとひらめいたのです。
エンジンオイル卸業のDX
次は、エンジンオイルの卸企業です。この事例企業は、エンジンオイルなどの潤滑油をカーディーラーやカーショップ、自動車整備工場などに販売しています。
これまではエンジンオイルを販売する場合、ドラム缶に入れたエンジンオイルをトラックで運び、ディーラーなどでドラム缶を降ろして添え付けていました。ドラム缶にはオイルが200リットル程度入りますので、約200kgの重さになります。これを降ろしたりあげたりする作業が大変でした。
そこでこの企業は、ドラム缶はディーラーなどに据え置き、据え置かれたドラム缶にオイル充填するという量り売りのスタイルに変えました。
これでドラム缶を上げ下ろしする作業はなくなりましたが、オイルが切れてしまった時にはディーラーからの連絡が必要でした。またオイルが切れてしまうと、ディーラーからはすぐに補充してほしいと言う要望が出ていました。
これを解消するために、ドラム缶に通信装置を組み込んだセンサーを取り付け、オイルがなくなりそうになった時に、この事例企業に自動的に連絡が入るようにしました。
これにより、ディーラー側にオイルがなくなったことを事例企業に知らせなければならないという手間が削減できます。
企業側は、急いで持って行くのではなく、日数の余裕があるため効率の良い配送ルートを決めて持って行くことができます。
現在この企業は、オイルだけでなく流体の物は同じ事ができるということに着目し、このサービスそのものを販売しています。
ここではエンジンオイルの卸企業を例にとりましたが、消耗品や交換品を組み込んだ製品を作る企業は、同様のことができます。
消耗品や交換品を組み込んだ製品というのは、コピー機とトナーの関係に似ています。
例えば、オフィスや家庭にあるウォーターサーバーのようなものです。ウォーターサーバーは、利用者から見れば、ウォーターサーバーの水がなくなってくると、サーバーを提供してくれた会社に「水がなくなりました」と言って交換してもらうでしょう。他の方法としては、月額定額制で契約し、まとめて何本かが送られてくるでしょう。
いずれの方法も一長一短があります。
こう考えるとウォーターサーバーは、水がなくなりそうになったら発注をするというのが理想的です。ここまで書くと先程の、オイルの量り売りと似たサービスが適用できることがおわかりでしょう。
水がなくなってきたということを感知するセンサーを組み込んだウォーターサーバーを製造し、販売すればよいのです。
そろそろ水がなくなりそうということをセンサーが感知して、提供者にメッセージを送ります。送られた側は、自社の配送ルートの効率性を考え余裕を持って水を配送することができます。いかがでしょうか。
ここが創造性です。お客様の状態を知る方法はなにか?をいつも考えて、何度も考え抜くことで、センサーが使えるとひらめいたのです。
論理思考が強い方へお勧めする思考法
では、お客様の困りごとに対して真摯に考え、新しいビジネスモデルを生み出す革新性や創造性というのは、どのようにして身に付ければ良いのでしょうか。
このコラムを読んでいる方の多くは、革新性や創造性よりも、システム的な思考や論理思考に長けた方が多いのではないでしょうか。その方たちにデザイン思考や想像力を高める手法などと言っても身につかないのではと考えられるでしょう。
そこでおすすめするのが、「要素分解+置き換え法」や「リ・デザイン思考法」と呼ばれる、論理的思考とアイデア発想を組み合わせた思考方法です。
どのようにするかと言うと、対象を要素分解して小さな部分に分けて考えます。その小さな部分の性質や振る舞いや機能に着目しその機能を何かに置き換える、というような発想をします。
石焼き芋屋の例で示します。この場合は、3W1Hに要素を分解してみます。
誰に=美味しい石焼き芋食べたい人
何を=当社の石焼き芋
どこで=お客様のいる場所の近くで
どうやって(知らせるか)=「いしやーきいも」という音声で
このように分解して、「どうやって」に絞り込み、他の方法がないかを検討します。
どうやって(知らせるか)= デジタルで → Twitter で
と、方法を置き換えることができます。
エンジンオイルの卸企業の場合は、オイルの
「保管」→「消費」→「回収」→「配送」
のように作業を要素(プロセス)に分け、
「消費」に着目して、「消費」状態を知る
という方法をデジタル化して、ビジネスモデルを変えていきました。
初めから、革新性や創造性は身につけるのは難しいと考えるのではなく、このように対象を分解して、着目する点を絞り込むと、より早く変革できると思います。
ぜひ、試してみてください。
参考
移動する竹村商店
https://takemura-shop.com/
オイルマネジメントシステム
https://www.fukuda-lub.co.jp/
リ・デザイン思考法
https://amzn.to/3BYdiH6
連載一覧
筆者紹介
http://mt-brain.jp/
「経営とITと人材育成」のコンサルティング業を中心とする株式会社 エムティブレインの代表取締役。現在、経営とITの橋渡しをする社外CIO (社外IT顧問)サービス提供中。
主な著書(いずれも共著)
「IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」 技術評論社
「この1冊ですべてわかる ITコンサルティングの基本」 日本実業出版社
「生産性向上の取組事例と支援策」 同友館
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