概要
最近ではインターネットによる買い物や非接触型ICカードによる電子マネーなどが普及し、ITの活用が大きな利便性の向上をもたらしており、ITサービスが社会基盤として不可欠になってきている。 ここ数年、新型コロナウイルスの感染が拡大される中で、一気にDXが加速しビジネス環境が変化している。 こうした変化に即応しビジネス変革を支えるITに対して期待も高まり、ITサービスに対する信頼性が要求される中で、継続的に品質維持・向上するためにはどのようなことをすればよいか?
連続コラムの最終回となりました。
前回第4回のコラムにて人材不足、人材育成の話をしておりました。その続きになりますが、今度はお客様事例としてこの度、弊社お客様である流通・小売業の某社部長にインタビューができました。今回、対話方式にはなりますが、その内容を皆様の日々の業務の参考にして頂ければと思います。
インタビュー開始
(天野)今までの成功・反省事例、また課題と思っていること。またこれから取り組みたいと思ってることについてお聞かせください。
(某社A部長)“右腕”不足問題。まず開口一番「若手の育成」でした。
どの会社にとっても永遠のテーマになると思いますが、その会社はシステム会社ではなく流通・小売事業をしている会社の情報システム部門であり、システム従事を目指して入社されている訳ではない中、まずは業務部門に配属されてからシステムに異動する形態をとっており、新人からの配属はしていません。また情報システム部門に居る人も高齢化傾向にあり、10年後には誰が残っているのか?を考えると業務部門からシステムに異動してくる若い配属者の、早期育成・成長が期待されます。若いといっても大学卒業し入社してから5,6年業務経験を積んだ人、すなわち30歳前後といったところです。この会社は公募制をとっており現場からシステムに異動したいという希望者に対して、システム部門の責任者と面談をした上で異動できる制度があり、2022年度15、16名が手を挙げ、その内4名を異動させました。ただ彼らはなにもシステムに詳しい訳ではありません。求めるものは数年の業務経験を活かしたシステム企画、システムコーディネートである。使う側の経験でもっとこうすれば効率化できたという頭をもってシステムを見て欲しい。専門的な構築・運用はSIベンダーに任せればよい。
確かに過去の汎用機時代のシステム部門は、設計、コーディングやプログラム開発などをやってきましたが、今システム部門に求めるものはそこではありません。設計書やシステムテストなども今やベンダー任せにしています。しかし、この分野も経験がまったくないとマズイと感じています。ベンダーと対等に会話ができず、中身がわからないがゆえにベンダーから提示される工数根拠や専門用語もわからず、言いなりになって発注をしてしまうことも多いです。テストのやり方、視点も足りていないことが多く、いわばお任せになってしまっています。そうなると情報システム部門の役割が何なのか?がわからなくなってきます。「業務要件、業務についての有識者が現場部門。システムについてはベンダーが構築する。」だったら情報システム部門の存在意義がなくなってしまうという危機感があります。だからこそ、システムを理解しながら、早期に上流工程であるシステム企画、システムコーディネートもできる人材になって欲しいと切に思っているところです。
(天野)そういった人材になって欲しい為にどういった教育をされていますか?
いわゆる人材育成的に「促成栽培」する時のコツは?
(某社A部長)教育方法としてオーソドックスではあるものの4つを実施しています
① OJT(On the Job Training)
② OFF-JT(Off the Job Training)
③ SD(Self Development)
④ eラーニング
① OJT(On the Job Training)
業務のことはわかっているハズなので、システムにおける構築の過程(PM的な)を経験させる。データ移行、テスト・検証を実際にさせるなど、会議からテスト・検証をさせるところまで一通り体験させることが大事です。また障害対応なども経験することで学ぶところが多くあると思います。そういった経験を数多くすることで理解を深め即戦力になってもらいたいと考えています。
② OFF-JT(Off the Job Training)
こちらは、一旦は職場から離れ、外部講師による研修や内部研修を行っています。また研究会への参加などで知識を吸収して欲しいところです。研究会への参加という意味では過去にユニリタユーザー会へも参加しておりました。
障害時の文書の書き方や資料作りの際の文面の書き方などはまなぶところが多くあります。
③ SD(Self Development)
社内外のセミナーに参加したり、書籍を通じて学びの機会を得たりと、その方法は多岐にわたります。業務に関連する資格取得やスキル習得もこれにあたります。会社の制度としては、セミナーの実施や資格取得にかかる費用の負担、特にIPA資格(ITパスポート)については積極的に推進しています。何せ自己学習の底辺には
個人の意欲が重要で、それがないと継続もしないし、合格もしません。この辺りは個人のやる気にかかっています。
④ Eラーニング
最近では当たり前のことになってきております。Webセミナーにより、いろんな人が登壇されており、特に失敗談などはそれを聞いて自分もそうならないようにしよう。成功談の場合は、今後そういった場で語ることができるくらいの成功を収めようという前向きな気持ちを持たせ勇気づけるものに積極参加させています。
(天野)eラーニング、外部セミナー、研修については、ユニリタ様の主催のものも多くありますので、その中の一つでも参考になればと思います。また参考までにアメリカのある調査会社が「リーダーが成長につながったこと」を調査したところ経験7割、人間関係2割、Off-JT1割であることがわかりました。そのため現代の人材育成施策は経験を重視しながらメンタリングやOff-JTを組み合わせた施策を行うことが常識となっているそうです。こうした教育をすることで、早期にシステム企画のできる人。システムコーディネートができる人を何人も育成できればよいですね。羨ましい限りです。繰り返しにはなりますが、ユーザー企業の情報システム部門の役割って何?を胸に具体的にどういった人になってもらいたいですか?
(某社A部長)今はスクラッチで一から開発するというよりは、パッケージ文化になってきているので、ある程度の知識は長期で見るとコストダウンや作業見直しにも繋がっていき必要なことであると理解するものの、詳細まではわからなくてよいのではないか。細部は任せられる人が世の中にはたくさんいるはずです。設計書レビューをやっていきながら一緒に理解し、何かあった時に対応できるような知識を身に付けることは必要ですが、それ以上の知識が本当に必要なんだろうか?仕事の役割分担としてそこは「プロ」に任せればよいのではないか。というのが強い思いとしてあります。
そういった役割の中で、今後は本人の成長の為の未来のビジョン、キャリアパスを作っていく必要があると思っています。
場当たり的にプロジェクトにアサインされても、本人からしたら先が見えづらいので、どんな人物像を目指していけばよいのか?の指針を作る必要があります。
もちろん極論ですので、先ほどの専門職的なプロフェッショナルな道もいいとは思いますが、外部ベンダーに委託したあとの上流工程のシステム企画に就いてもらいたく思います。
(天野)手に職をつけると退職されてしまうのでは?
(某社A部長)専門技術は手につけていないメンバーが他に行っても自信がないのか?幸いにして転職者は少ない方です。
(天野)システム業界においても、今の世の中、システムに詳しい人よりも業務動線がわかる人の方が重宝されるものですよ。
(某社A部長)本当ですか?
(天野)パソコンのわからない銀行マンとシステム業界でパッケージ営業されていた方が、あるSIベンダーの転職採用面談を受けた時、どっちが採用されたと思いますか?実は銀行マンの方が採用されました。というのはシステム構築する上で業務を知ることが大変重要で、業務の効率化などを検討する時にその情報が有用であるという判断です。お客様との会話ができるノウハウを有してさえいれば、システムはあとから学べばよいという考えです。さて今年異動された30代のメンバーに対する教育内容はどんなことをされていますか?
(某社A部長)2022年に異動してきたメンバーでいうと、まずは自己学習としてITパスポート取得を推進しております。またOJTについては、一緒に活動するメンバーの力量にも左右される為、場合によっては放置状態になってしまいかねません。そこはPMBOKや開発ガイドライン、またその見直しをしていく中で、それに沿った教科書を使って経験を積み重ねてもらうしかありません。
(天野)ITILもそうですが、定義づけたものを全員が理解することにも重要な意味があります。第二回コラムの「運用」事例についてでも定義しておりますが、SEが10人も集まれば、運用の言葉の意味ですら焦点が合わないことが多いです。同じ知識を持って共通認識するために文字化して進めることも大切で、そういった底上げ教育としての地道な活動も必要かもしれませんね。
(某社A部長)同じことを言っているようで自分の知識・経験の範囲で解釈してしまう人も多いので、そういったことも必要に感じております。現場でいうフロー図やシステム構成図等の概念化するドキュメントは大切なものです
(天野)全体のコスト圧縮が盛んな中で、そういったドキュメント整備の仕事をみて上司が「お前何しているんだ?」と見られがちになりますが、そういった工数(コスト)を軽視せず、開発でもドキュメントの無いプログラム(仕様書、フロー図等がない等)は、無くしていく方向で取り組まないと、有事の時には大変なことになってしまいます。
(某社A部長)ドキュメントがないから早いんです。ドキュメントがソースです。なんて平気でいう人も多くなってきています。否定するわけではないが、そういうものもこれから主流になっていくのかもしれません
(天野)ただ、そのままにしておくと属人化してしまい、その人しか使えなくなってしまい高齢化による離職時などメンテナンスもできないし手をつけられないといった状態になってしまいかねません。
(某社A部長)実は、弊社内でも「野良Microsoft Access」を使ってるところもあり、異動になってしまって、計算ロジックなどのドキュメント類もなく、あの人でしかわからない状態で問い合わせがきたりもしております。
(天野)そういった属人化によるトラブルを避けるために、やはり最低限のドキュメント整備は必要かと思います。
今お話し頂いた人材育成について、これからのご活動についてお聞かせください。
(某社A部長)今年度、社内の人材育成のリーダーをしており、月1回定例で運営するはずが、今年度は手をつけられていない状態でした。2023年度以降、目標、キャリアパスなどの方向性を出した上で、しっかりやっていきたいと思います。
インタビューは以上です。
お客様の情報システムの在り方、人事制度や一般的な人事部の仕事ではなく、現場配属されてからの目標の持たせ方、キャリアパス、育成シナリオを現場で作成しなくてはいけない中で、キーワードとして、情報システム部のメンバーは教育方法もいろいろあるもIT経験×業経経験の両方の経験値を重ねて上流工程ができるメンバーであるべし。というお話がお聞きできました。一昔前まではシステムは生産性向上のためのローコスト化ツールの一つと言われてきましたが、技術も進歩し、今や売上を上げるためのツールの一つとなりうるものでもあり、それぞれのビジネスシーンにおいてシステムを使ってビジネス企画できる人材こそが各企業のキーマンであることがお聞きできました。情報システム部門に配属されている皆様は誇りをもってミッション遂行していきましょう!
また機会ありましたら掲載させて頂きますが、以上で連載物としまして最後のコラムとなりました。今までお読みいただきありがとうございました。また機会ありましたら掲載させて頂きます。
連載一覧
筆者紹介
株式会社ヴィンクス 営業本部 部長
1992年 株式会社ダイエー入社と同時に情報システム子会社に出向。
ネットワーク管理業務を経てネットワークSEとして大手顧客、及び新規顧客向けインフラ提案・構築に従事。
2009年 某社様の基幹システム全面刷新時インフラPM。構築完了後そのシステム保守・運用に関するプロセスを整備し、運用フェーズの品質を管理するITサービスマネジメントに従事。
2012年 ITサービスソリューション部にてITサービスにおけるインフラ・運用人材の育成やITサービスに関わる新規事業戦略策定に従事。
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