概要
デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。
米国でのインフレ対策のための金利上昇は継続し、円安に拍車がかかり、国内の物価にも影響を及ぼしています。
この状況ではコロナ禍が少し収まったとしても、ドルを買うのは避けておいた方がよさそうです。
さて今回は、コロナ禍、インフレ対策の金利上昇や、ロシア・ウクライナの問題長期化などから懸念される景気後退により、ソフトウェアベンダーが対策として年次保守費用の増額に動き出した点について解説します。
SAP サポート費増額の正式アナウンスメント
https://support.sap.com/content/dam/support/en_us/library/ssp/carousel/support-fee-statement_english.pdf上記のURLにあるように、先ごろSAP社は、正式に2023年1月からのサポート費の増額を発表しました。90日前の告知で毎年サポート費を増額することができる、と契約書において定義されていますが、実際に実行するのはこの10年間で初めてのことです。この増額はリスト価格には反映されず、あくまで既存のサポート費に対してのみ適用されます。ポイントは以下の通りです。
- ① 適用対象は、初回ターム、初回更新タームを迎えた Order Form が対象です。
- ② 新規購入は、初回更新タームを迎えるまでは追加CPI(Customer Price Index)レートは適用されません。
- ③ クラウド製品および契約は適用対象外です。
ユーザー組織は、2022年内にSAPサポート契約をレビューし、2023年の正確なコストを把握し、正しく予算化することが重要です。
Oracleサポート費増額の案内
市場では「Oracle社から年次サポート費が8%増加する案内が来た」というユーザーが増えているようです。最初は、欧米から聞こえてきましたが、最近は国内のユーザーからも聞こえています。
SAP、Oracle に限らず、現在の世界経済を鑑みるとすべてのソフトウェアベンダーが同様の戦略をとってもおかしくない状況であることは間違いありません。
今日のソフトウェアの世界市場の傾向として、以下のポイントが挙げられています。
- ① 年次サポート費の増加
- ② オンプレミスからクラウドサービスへの移行(S/4 HANA、EBSなど)推進
- ③ ライセンス監査の増加
これらの傾向はユーザーにとってはコストの増加や、ユーザーの求めるタイミングではないタイミングで環境を移行しなければならない、あるいはユーザーが制御できない状況で新たな契約へとロックインされることにつながります。
ユーザー組織にとっては好ましくない状況ですので、これらに対してユーザー組織が取り組むべきは、
- ① ライセンス最適化
- ② ライセンス契約交渉力の獲得
- ③ 自組織のニーズに基づくクラウドへの移行
- ④ 年次サポート費の増加抑制
- ⑤ ライセンス監査による補正、遡及費用の制御
などの対策を講じることです。
実際、これらを実現するために、SAM管理ツールの導入を検討されるユーザー組織が増えていますが、自動化ツール導入において最も重要なポイントは、SAM/ITAM の取り組みは「その80%がプロセスであり、20%がテクノロジーである」ということです。
有効な自動化ツールを導入しても、80%のプロセス設計が組織横断的に実施され、ポリシー、役割と責任(体制)、プロセスが適切に設計されていないと、その恩恵にあずかることは難しいのです。
しかし、その一方で、80%のプロセス設計と20%のテクノロジーを有効に活用すれば、非常に困難とも思える前述の5つの取り組みを成功へ導くことは難しくありません。
取り組みは運用部から提案し、IT企画部門を戦略的VMOのバーチャル組織の主幹として適切な役割と責任を定義し、ポリシー(社内規程)にもとづいた、ステークホルダーを網羅した組織横断的なプロセスにより、必要な情報が集約され、必要な管理メトリクスに基づいて自動化され、運用部にとって明確な目的と手段が与えられた状態を継続的に改善ができる仕組みとして維持できるようにしていきましょう。
ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。
これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。
日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。
連載一覧
筆者紹介
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師
IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。
【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)
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