- 目次
- 業務プロセス設計管理スキル
- 汎用力
- ブランドマネジメントスキル
- おしまいに
「もったいない」システム管理者にならないために
いよいよこの連載も6回目。最終話の今回は、私たちシステム管理者が普段の業務で培った能力をより輝かせるために、どんな心構えが必要か? どんな能力を鍛えたらよいかを考えます。
断言します。
私たち運用SE、システム管理者。とてもイイことやっているんです。世の中の課題を解決できるような、発想やスキルが既に身についています。
なのに、そこに私たち自身が気づいていない。そして、活かしきれていない。一言で言うと、「もったいない!」
これは個人にとっても、はたまたIT業界にとっても損です。
では、そんな「もったいない」システム管理者で終わらないために、私たちはどうしたらよいでしょう? 明日を生きるための3つのスキルについてお話します。
その3つとは、業務プロセス設計管理スキル、汎用力、ブランドマネジメントスキルです。
【図1】(クリックで拡大)
1.業務プロセス設計管理スキル
情報システムの運用管理業務とは、業務を設計して、回して、管理する取り組みそのものです。
私たちシステム管理者にとっては、なんら当たり前のこの流れ。
前回(第5回)でも解説したように、非ITの人たちは意外とできていません。
■経理部が新しい業務サービスを始めた。が、想定外のトラブルだらけでうまく回っていない。
■人事部が「働き方改革」を断行した。最初の勢いはあったものの、社員に浸透しないし続いていない。
■営業部が売上データの提供方法を変更した。しかし、営業部の社員のスキルが追いついていかず、続けられそうにない。
■購買部が取引先評価情報の開示サービスを始めた。が、そのサービスの存在自体、社員に知られていない。使われない。
このような景色が、業種職種問わずさまざまな企業で展開されています。
皆さん「立ち上げ」はできる。しかし、その後の運用がボロボロなのです。運用を設計する発想がない、あるいは考慮漏れが多い。
「とりあえず新しい業務を立ち上げた。後はよろしく、なんとかしてね」
こんな無責任な置き土産が、今日も非ITの現場のため息と悲鳴を巻き起こしています。
私たち、システム管理者は運用設計ができます。運用管理ができます。
すなわち、新しい業務サービスを立ち上げ(あるいは既存の業務サービスを変更)した後の運用プロセスを作り、回す仕組みを作ることができます。
これは、世の中にとって大変価値があることです。それをまず認識しましょう。
2.汎用力
せっかくの運用設計能力、管理能力。いつもの仕事の、いつもの運用業務のみならず、世の中のためにどんどん活かしたいもの。
「あの業務の立ち上げトラブル、リリース管理の考え方を応用すれば解決するんじゃないかな?」
「インシデント管理と問題管理を取り入れれば、あの部署のクレーム問題、もっとラクになりそうな気がする」
「あのサービス、可用性とキャパシティに問題ありでは?」
こんな目線で、身の回り(手始めには、ユーザ部門や関連部署)の様々な業務の改善や課題解決に貢献できないか想像してみましょう。あるいは提言してみましょう。
ただし、ITの専門用語を並べ立てて迫ってもダメです。「はぁ」って顔をされて、ますます敬遠されるだけですから。
ただでさえ、非ITの人たちにとって、ITの世界のやり方や手法は「難しい」「自分たちには無縁」と思われがち。平易な言葉でわかりやすく伝える。これが大事です。
私は著書「新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!」「新米主任 ITIL使ってチーム改善します!」(C&R研究所)を上梓しました。ともに、非ITの現場(化粧品会社の購買部門、通信販売部門)で主人公の女の子がITサービスマネジメントの考え方を使って業務を改善するストーリーです。
ITの世界のやり方を、非ITの人たちにも知ってもらいたい。試してもらいたい。そんな思いで書きました。
おかげさまで、徐々に製造業、商社、サービス業など非IT企業の非IT部門がITサービスマネジメントをつまみ食いし、現場の課題解決と業務の価値向上の成果を出し始めています。
このように皆さんにもITサービスマネジメントを、分かりやすく翻訳してほしいです。答えはひとつではありません。人によって、現場に応じて、翻訳の仕方は多種多様でしょう。
残念ながら、ITサービスマネジメントはとても分かりにくいし、とっつきにくい。それにより、知られない、使われない。私たちシステム管理者の価値もあがらない。すごく残念でもったいないです!
3.ブランドマネジメントスキル
私たちの取り組みには「どんな価値があるのか?」「誰にどんな価値を認めてもらいたいか?」
とことん考えぬきましょう。日々、淡々と運用業務をこなしているだけではなかなか新たな価値は見つけられません。
・運用のメンバー同士で議論してみる
・他社のシステム管理者や運用担当者と話し合ってみる
・他業種の人たちと意見交換してみる
こういう取り組みは、自分たちの価値を再認識する機会をもたらしてくれます。
あるいは、いっそあなた自身が他部署に移動してみるのも良いのではと思います。
・システム管理者出身の営業
・元運用SEの広報部員
・ITSM経験のある人事部長
景色が変わると、いままでやってきたことが意外な形で日の目を見ることがあります。それこそ、ITSMのやり方を他の職種で生かす。それにより、システム管理者の活躍の幅がどんどん広がり、価値が高まります。
「さすが、元システム管理者!」
「ITの運用って、目立たないけれどイイことやっているんだね」
「ITサービスマネジメントを生かしてくれたお陰で、部門の課題が解決したね!」
こんな言葉が飛び交うようになったら素敵ですね。私たち自身も、システム管理者の仕事に誇りを持てるようになります。
「価値は相手が決めるもの」
ブランドマネジメントの原則です。システム運用の現場に籠っているだけでは、自分たちの価値は分からない。ならば、外に出て相手(他者)に決めてもらえば良いのです。よって、どんどん外に出ましょう。情報発信しましょう。それにより、システム管理者なる職種のブランドは強くなります。
おしまいに
都内のある小学校のお話。IT系企業に勤める社員がPTAの役員を勤め、プロジェクトマネジメントやITサービスマネジメントを使って従来の運営方法を見直し、PTA活動を変えているそうです。無駄な会議や非効率な作業を削減、一部業務の外注化も進めていると聞きます。結果、PTAに参画する保護者に学ぶ意識や改善意識が芽生え、モチベーションが上がっています。
IT業界ではありませんが、日産自動車の購買部門のOBがある県の小学校の民間出身校長に着任。給食の食材を地元の契約農家から調達するやり方に変更し、給食のコスト削減と地産池消の促進に貢献しています。現役時代に学んだ、外注管理を生かしているのです。
このように、私たちが日々仕事のなかであたりまえようにやっていることは、他業界、他業種の役にたちます。感謝されます。
プロジェクトマネジメントしかり、そしてITサービスマネジメントもまたしかりなのです。
そのために、外との接点をとらえて、あるいは外の人たちと触れ合う機会を積極的に作りましょう。
ITサービスマネジメント。ITの狭い世界だけで、小さくまとまっていたらもったいない。汎用力を持たせ、世の中にとって価値あるものへと進化させましょう。それは、私たちIT業界の価値を、ひいてはシステム管理者の価値を高めることに貢献します。
まずは同じ社内のシステム管理者同士、運用SE同士で「どうやったら、ITサービスマネジメントってモノを一般の人たちに分かりやすく伝えられるか?」「つまり、私たちの仕事の価値って何よ?」こんなワイガヤ議論をはじめてみてください。
そこから私たちの新しい活路が見出せることでしょう。
全6回の連載は今回でおしまいです。この連載の執筆を通じ、やっぱりシステム管理者って凄いな!と、私自身改めて認識しました。そして、その凄さを強化するのは現場で頑張る読者の皆さん一人ひとりです。すばらしきシステム管理の世界。ポジティブに発展させていきましょう。
最後に、いつものメッセージをもう一度お伝えします。
「皆さん、ITサービスマネジメントができるって凄い事です。自信もってください!」
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