ITシステム運用コンサルタント
沢田典夫氏
早いもので、今年も残り三週間あまりとなりました。
この一年、皆さんにとってはどんな一年でしたでしょうか?
年末から年始にかけてはシステムの切り替えなどで多忙なため、とてもそんな振り返る気分にはなれない方たちも多いのではないでしょうか?
景気が回復し始めたのか、システムの更新時期と重なったのかは定かではありませんが、今年は特にオープン化が急速に進んだ一年だったような気がします。この傾向は来年も続き、元々不足気味のオープン系の技術者が益々不足するものと思われます。
さて、このサイトでは第1回:運用方針、第2回:現状の把握、第3回:問題点と課題の整理と話を進めてまいりましたが、少しは参考になりましたでしょうか?
第4回は、運用全般の運用設計に焦点を当ててお話をいたします。
運用設計とは
システムは一旦稼動し始めると、計画停止や異常が発生した場合を除き、次のシステム更新があるまでは動き続けます。その間、稼動させるシステムを長期間安定稼動させる、あるいは維持管理させるために、多くの事項を想定・考慮してシステムの開発/保守を行う必要があります。
また、システムは平日・休日・日中・夜間・時間帯・携わる関係者など、周りの状態により日々変化しながらまるで生き物のように動きます。曖昧な状態でそのようなシステムを稼動させると、必ず混乱やトラブルを招き、それを回避するために運用作業としてカバーすることも少なくはないようです。
運用設計とは、そういった想定される事態、状況、変化をシステム構築段階で要件として吸収し、未然に混乱やトラブル、曖昧さを防ぎ、そのシステムが思ったように動いてくれるような環境や仕組み、作業などについて明確化させることをいいます。
運用設計のポイント
運用設計は、昔からのシステムでは当たり前のように行われていました。
しかし、その定義や設計すべき項目などについては、明文化されたものは少ないのが実態です。
以下、運用設計のポイントについて、注意事項も含め紹介します
- 運用設計はいつ実施するか?
- 後述する運用設計のキーワードでも挙げてあるように、システム設計フェーズの上流(概略設計、詳細設計)段階から行います。
システムを設計する段階で運用を意識していないと、運用作業の増加、二度手間、手戻り、受け入れできないなどの事態が発生します。上流段階からの設計により、このような事態を防ぎます。
- 後述する運用設計のキーワードでも挙げてあるように、システム設計フェーズの上流(概略設計、詳細設計)段階から行います。
- 運用設計が必要なときはどんな時か?
- 運行の仕組みの変更、運用ツールの導入改変、運用監視方法の変更等の事態が発生した時には必ず実施します。また、アプリケーション、ジョブ、ジョブネット情報・帳票情報などの定義、作業、媒体、帳票などに関わる運用変更がある場合も実施します。
- 運用設計には種類があるか?
- 運用設計には資料(開発と運用設計)にもあるように、開発するシステムに関わる単体の業務運用設計とシステム運用設計、全体の運用設計に分かれ、それごとに検討する範囲や内容が変わります。
業務運用設計:その業務と関連する業務に関連する範囲
システム運用設計:そのシステムが稼動する環境全体
全体運用設計:運用作業全体からの視点
- 運用設計には資料(開発と運用設計)にもあるように、開発するシステムに関わる単体の業務運用設計とシステム運用設計、全体の運用設計に分かれ、それごとに検討する範囲や内容が変わります。
- 運用設計は誰が行うか?
- 運用だから運用だけで行うものではありません。
- 作業役割として開発と運用の両方を受け持つ場合は同担当者でもかまいません。
- 資料(開発と運用設計)にもあるように、業務運用設計範囲は開発、システム運用設計は開発/運用の共同、全体運用設計は運用側で実施します。
- なぜ運用設計ができないと言われるようになったか?
- 資料(開発の昔と今)にもあるように、昔の開発をしながら運用してた時代とは異なり、生産性重視や作業役割を分離し始めてからは、運用設計力は低下し、運用が考慮されない時代となりました。開発は運用が分からない、運用はシステムが分からない立場であり、そうゆう意味からも各々の役割のスキルを持ち寄り、両者で運用設計を行うことが望ましい姿です。
- 運用設計工数をどう捻出するか?
- 信頼性、自動化、運用作業などを運用設計できちんと考慮すると、システム開発期間は従来と比べれば大幅に増加します。
- 開発期間が予め運用設計フェーズを考慮していないと、開発計画は厳しくなり、結局は運用設計を省略する場合がでます。
- 運用設計が全てできていないと運用受け入れできないのではなく、サービス開始を考えれば、開発/運用の両者で初期の段階で運用設計事項を選定し、どれだけ運用側も設計作業に支援するかが大切です。
- 運用設計の適用は新規業務/保守業務か?
- 規模や変更内容にもよりますが、難しいのは保守の場合の運用設計です。もし運用設計がされていない場合のシステムの保守であれば、その稼動した状態で保守作業をするため、よほどでない限り手間暇かけての運用設計はしていないケースが多いのが実情です。
- 新規構築、あるいは、システムの更新時に運用設計を適用するほうが的確に実施できます。
- メインフレームとオープン系での運用設計の違いはなにか?
- メインフレームはどちらかといえば運用設計や標準化が確立されて構築され、現在は充実期と判断できます。
- オープン系の運用設計や標準化の確立や定着にはまだまだ時間がかかるのが実情です
- メインフレームで運用設計や標準化が定着してきた道のりを、同じようにオープン系でもやっと進める状況になりつつあります。
- 短期間で構築しやすいオープン系では、バラバラな運用が広がる前に、オープン系だからこその運用設計はもっとも重要なカイゼン項目となります。
- オープン系でもメインフレームで培ってきた運用設計ノウハウを利用する。使う道具は違いますが運用設計のノウハウは同じです。
- オープン系は、仕組み的にはメインフレームのように簡単ではないが、監視、スケジューラを組み合わせての統合環境を構築することで、同様な運用を実現することは可能です。
- メインフレームの運用とは異なり、オープン系での運用作業量は単純に構築すればするほど大幅に増加します。
- オープン系での運用設計技術者が不足している。特に運用知識だけでなく多少インフラ知識も必要なのが実情です。
運用設計のキーワード
それでは、どのような事項を運用設計すればよいのでしょうか?
システムや運用形態、システム規模などによっても異なりますが、大きくは以下のような大分類の項目が挙げられます。
基本設計フェーズ
- 開発計画に盛り込むべき計画事項
- 開発から運用への引継ぎ計画、リリース計画、教育・訓練計画、ドキュメント作成項目
- システム要件、制限
- 要件概要、設備/環境、システム要件、自動化要件、運用制限事項
- セキュリティー管理
- 個人情報、ユーザ情報
- 業務監視
- 設備、メッセージ、監視事項
- 運用作業内容
- 利用者、使用者、関係者での関わりやそのワークフロー
- 体制・役割・責任範囲
- 作業事項、作業内容、作業負荷
- 問い合わせ
- 操作、ハンドリング、判断・確認事項
- 運用ルール
- 起動条件、データ到着遅延、処理遅延、デリバリー
- トラブル対応
- 影響、連絡体制
- 対応作業:パターン化、リカバリーJOB
- 処理条件
- 処理時間帯、起動/停止、スケジュール
- 処理に関するJOB,JOB-Net情報
- 媒体管理
- 受け渡し、世代、保管
- 媒体に関する管理情報
- 帳票管理
- 出力時期、出力時間帯、概算出力量、出力種類
- 出力後の後作業、デリバリー方法、使用用紙
- 帳票に関する管理情報
詳細設計フェーズ
- 開発計画に盛り込むべき計画事項
- 概略設計時より詳細な日程
- 開発から運用への引継ぎ計画、リリース計画、教育・訓練計画、ドキュメント作成項目
- セキュリティー管理
- 概略設計時に考慮できなかった場合
- 個人情報、ユーザ情報
- 業務監視
- 概略設計時に考慮できなかった場合
- 設備、メッセージ、監視事項
- 運用作業内容
- 概略設計時より、より詳細に
- 利用者、使用者、関係者での関わりやそのワークフロー
- 体制・役割・責任範囲
- 作業事項、作業内容、作業負荷
- 問い合わせ
- 操作、ハンドリング、判断・確認事項
- 運用ルール
- データ到着遅延、処理遅延、処理の日またがり、デリバリー
- システム間連携時での送受信遅延や異常時
- トラブル対応
- 概略設計時より、より詳細に
- 影響、連絡体制
- 対応作業:パターン化、リカバリーJOB
- 管理情報
- 運用ルール、メッセージ対応、リカバリーパターン、リカバリー手順、場合集、Backup
- 作業手順書、作業チェックシート、運用マニュアル
- JOB-Net構成図、JOB情報、JOB-Net情報、スケジュール情報、カレンダー情報
- 媒体情報、帳票情報、連絡先情報
- 処理条件
- 処理時間、起動/停止、スケジュール
- 媒体管理
- 媒体情報、受け渡し、保管
- 帳票管理
- 帳票情報、発送、帳票デザイン
- JOB、JOB-Net管理
- 構成、設計
- Backup管理
運用設計の進め方
- 運用設計は前項で記載したようなキーワードについて設計確認事項を一覧にしたようなサンプル資料(運用設計チェックシート)を用意する。
- 運用設計チェックシートより運用設計が必要な事項を予め選定し、選定した内容より運用設計作業計画に反映する。
- 運用設計事項に該当する内容を標準化規定などで定められた内容に基づき、各々の注意点や基準、方法に従い設計作業を行う
※色々な所にちらばっている各種標準化規定などについては運用設計ガイドラインに集約するとよい - 運用設計した結果を運用設計ドキュメントとして作成する
※運用設計ドキュメントとして、雛形の統一化されたフォーマットを用意すると便利です。また、作成ドキュメント内で作成する一覧表(処理、媒体、帳票、Backupなど)についても同様の扱いとなります。
サンプルとして、「運用設計チェックシート」 を添付いたします。(PDF)
運用設計に必要な運用情報
運用設計を行う場合には、処理や媒体、帳票などに関する管理情報以外に、以下のような運用情報が必要になるので、不足している場合には早めに用意されることをお勧めいたします。
- 稼働状況
- 負荷状況
- リソース使用状況
- I/Oや共用デッキ
- 運用作業
- 運用タイムチャート など
-
切り口としては月間、トレンド(3ヶ月、半期、年間)、同期、日、時間帯別、特性によっては曜日別など、用途に応じて必要な運用情報を確認しながら設計作業で使用すれば、より安全な運用を行うことができます。
当「運用ゲンジン」サイトではこの掲載が今年の最後になります。
もし、このサイトへのご意見、ご希望、ご相談などがございましたら、掲載内容にも反映させていきたいと思いますので、色々お聞かせいただけたら幸いです。
少しでも皆様のお役に立てるようこれからも泥臭い内容で勝負してまいりますので、皆様からの沢山の応援をよろしくお願い申し上げます。
また年明け1月18日にこのサイトでお会いいたしましょう。
皆様にとってよい年を迎えられますよう、心からお祈り申し上げます。
もし、このサイトへのご意見、ご希望、ご相談などがございましたら、掲載内容にも反映させていきたいと思いますので、色々お聞かせいただけたら幸いです。
少しでも皆様のお役に立てるようこれからも泥臭い内容で勝負してまいりますので、皆様からの沢山の応援をよろしくお願い申し上げます。
また年明け1月18日にこのサイトでお会いいたしましょう。
皆様にとってよい年を迎えられますよう、心からお祈り申し上げます。
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