運用エンジニアのためのMVS入門

第10回 IPLとターミネーション②

概要

メインフレームはあなたの企業を始め、多くの企業の基幹システムを支えています。とりわけ金融、製造、公共など、日本の基幹産業で今日も働いています。新しいニュースは少ないものの、まさに業務を確実に処理するための大きな存在です。世の中にはあまり知られていませんが、オープン系をいまだに超えている技術、ノウハウが生きている分野です。黙って国を支えているITといっても過言ではないと思います。
そんなシステムを品質よく、安定して運用するためには、業務運用マニュアルや先輩・上司からの言い伝えだけでなく、確かな知識が必要です。
ここではメインフレームの代表的OSであるMVS(z/OS)の基本的なしくみについて、運用部門に携わる新人エンジニアに必要なものを解説します。

システムのターミネーションは、基本的にはIPLと逆の手順で操作をしていきます。
順番の基本は、
 ①アプリケーション・ジョブの停止
 ②システム系ソフト(ミドルウェアなど)の停止
 ③OS系サブシステム類とJES2の終了
 となります。
 

アプリケーション・ジョブの停止

バッチジョブとして動くアプリケーション場合は、プログラムの処理が終了すればジョブも終了します。JESの$DAコマンド等で実行中のジョブがあれば、そのジョブが終了するまで、システムのターミネーションを待つか、実行をキャンセル($Cコマンド、Cコマンド)してターミネーションを優先するか、いずれかを決めます。このような場合のセンター規約があればそれに従いますが、そうでない場合、オペレーターの判断でジョブをキャンセルしていいかどうかは迷うところです。開発系やテスト系のシステムでは問答無用でキャンセルしていいでしょうが、業務系の本番機では難しいところです。例えば業務データの変換ジョブでたまたま時間が掛かっていただけなのに、キャンセルされてしまい、後でデータをリストアし直す羽目になった、などとなりかねません。基本的なルールは決めておくべきでしょう。
例えば、「システムの終了時刻に間に合わない可能性があるジョブについては、ジョブ名、処理概要、実行者、連絡先をオペレーション部門に連絡する。届け出のないジョブはシステムの終了時刻に無条件にキャンセルされる。」のようにです。
 

システム系ソフトの停止

バッチジョブが終了すれば、次はSTARTコマンドで起動した常駐タスクの終了です。DB/DCシステムに用いられるミドルウェア製品など、IPLの際に STARTコマンドで起動したジョブを、P(STOP)コマンドによって停止します。製品によってはF(MODIFY)コマンドで独自の操作を要求するものや、%、#など独自のコマンド接頭文字で操作するものもあります。基本的に常駐タスクジョブは、バッチジョブと違って、正常に動いている限り、プログラムが自らジョブを終了させることは少なく、オペレーターの操作によって停止することになります。どのようなジョブが起動されているかは、OSのD A,Lコマンド等で知ることができます。
 

サブシステムとJESの終了

アプリケーションもミドルウェアも終了すれば、残りはOS自身と関連するサブシステムが残ります。これらを順番に止めていきます。先ずは、TSO → TCPIP → VTAM の順序で停止させます。
z/OSでは更にUSS(Unix System Service)も終了させねばなりません。ここまで終わればJES2は「$HASP099 ALL AVAILABLE FUNCTIONS COMPLETE」のMSGを出します。ここでJES2を終了させます。
JES2が終了してもz/OSでは、FFST、RACF、DLF、VLFなど JES2によらずにOSから直接起動されたサブシステムが残っていますので、必要に応じて終了させます(そのままにしてもシステム自体は終了できます)。
 

HALT処理

JESを止めれば、OS側での処理は終わりですが、センターによっては続いてHALT処理を行います。HALT処理はZ EODコマンドによって行われます。
①ハードエラー統計情報の書き出し
②SMFバッファーの書き出しとSMFデータセットの切り替え
③SYSLOGのクローズ
HALT処理によって、OS内のメモリーに残っているSMF情報を確実に記録できるので、業務系システムではZ EOD操作まで行い、ターミネーション終了とするのがいいでしょう。
 

システムの終了

OS側での処理が終われば、以降はシステムコンソール(OSのコンソールではなく、IPL時のLOAD操作を行ったコンソール)で、システムの終了操作を行います。これには、CPUストップ、システムリセット、パワーオフなどがあります。
 
 
今では24時間止めない運用も一般化しているので、IPLやターミネーションの操作を行う機会はめっきり少なくなりました。
運用部門のオペレーターでさえも詳細を理解する必要性が少なくなってきていますが、IPL同様、テスト系のシステムなどがあれば、機会を見つけてマニュアルでターミネーション操作をしてみて下さい。
 
次回はコンソールとコマンドについてお話しします。

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筆者紹介

株式会社アルテシード

代表取締役 神居 俊哉(かみい としや)

http://www.arteceed.com
ビーコンITにて約20年にわたり、独SoftwareAG社のTPモニター・ソフトウェア製品などのサポートや同製品の富士通、日立OSへのポーティングのためのシステムプログラム開発などを行ってきた。現在はメインフレーム・コンピュータに関する技術スキルを後進に伝え、基礎知識や実践的な技術を広めることで企業の情報システムを支えるべく、株式会社アルテシードを設立。併せて、メインフレーム・コンピュータ技術情報サイト“「メインフレーム・コンピュータ」で遊ぼう”(http://www.arteceed.net/
を主宰し、z/OSやMSP、VOS3など代表的なメインフレーム・システムのコミュニティ活動を展開開始。基本スキルから高度なプログラミング技術の解説、サンプルの提供、ならびに関連する各種の技術情報の交換なども行っている。

メインフレームでは約20年ぶりの和書、「メインフレーム実践ハンドブック」を3月にリックテレコム社より刊行。

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