情シス業務(プロジェクト)を適切に推進するために必要なこと

“目線合わせ”が適切に行われたとき情シス業務が適切かつ円滑に運用される

概要

情シス業務(プロジェクト)を適切に推進するにあたっては“目線合わせ”が最重要である
資産管理ツールやVPNの導入、各種セキュリティ関連の運用ルール施行および運用徹底にあたっては、システム管理者・現場担当者双方で目線(目的)を揃えておくべきである。
 
情シス業務は利益追求を命題とする営利企業において優先度を下げられがちであり、本来なら真っ先に取り組むべきプロジェクトがなおざりにされた経験があるシステム管理者も少なくないと推察する。

結論、その状況を打開するためにもっとも重要なことは“目線合わせ”である。
すなわち、システム管理者とその他メンバー(主に意思決定権を持つレイヤー)とで
・目的:理想的な状況と現状、そのギャップの認識
・ソリューションおよび妥当性:提案/推進するプロジェクトがギャップ解消(課題解決)に繋がるロジック
・詳細背景:プロジェクト推進によって得られるメリットおよび未対応時に想定されるリスクの理解
少なくとも、この3点について共通認識を醸成し、合意形成をとる必要があるのだ。

なぜなら、情シス業務が思うように進まない=現場サイドに正しく受け入れられていない状況における課題は、プロジェクトの価値や緊急性について府理解が生じている点にあるから。

具体的にはキックオフミーティングを開催してディスカッションを重ねたり、定期的に説明機会を設けたりするなどが望ましい。
反対に、プロジェクト推進にあたって現場サイドに端的な指示を申し伝えるだけに留まったり、利益やコストといった観点を失念していたりすると、本来やるべきことを正しく推進することは各段に難しくなる。

前提として、システム管理に携わる皆様が所属している“企業”は、利益追求を命題とした組織である。

企業内で執り行われるあらゆるアクションは、すべからずその目的達成に紐づいており、情報システム(以下情シス)業務も例外ではない。

即ち、リモート業務を推進するにあたりマストで実施されるVPNの整備・導入も、新入社員に貸与するPCのキッティングも、社員が使用する各種ツールのメンテナンスや保守も、全てが会社利益につながっているのだ。

何が言いたいかというと、案件獲得に奔走する営業職や日々迫りくる納期と格闘するクリエイター、彼らとシステム管理者諸兄は同じ目的を拝する仲間である、ということ。

にも拘わらず、情シス業務の推進にあたっては現場──システム管理者が身を置いている場所も“現場”に違いないのだが──との衝突や鍔迫り合いが往々にして生じており、それが原因でプロジェクトが遅延・頓挫するという苦い思いをした人も少なくはないだろう。

さて、そういった悲劇を回避するには、どうすればいいのだろうか。

今回は、マーケティング職および管理職の立場から、過去の経験を踏まえてひとつの結論を提示していこうと思う。

“目線”が合ったとき情シス業務が恙なく推進される
温度感の伝え方には注意が必要
“効果測定”が将来のプロジェクト推進を円滑にする
最初に変えるべきは自らの視点

“目線”が合ったとき情シス業務が恙なく推進される

「目線を合わせる」とはつまり、以下の事柄についてシステム管理者・現場の双方で共通認識を図ることである。

理想

プロジェクトを実施する対象における理想的な状態。

現状

プロジェクトを実施する対象における現状。

課題

理想と現状のギャップ。

ソリューション

プロジェクトを推進する手段(施策内容そのもの)。

ソリューションの妥当性

目的達成に向けて提案施策が妥当(最適)であることを示すロジック。

実施効果

施策実施により得られる効果(業績インパクトや回避できる損失の大きさ)。

温度感

プロジェクトの重要性や優先度。

要するに、「何を目的に、何故、何を、どのようにやるのか」という点をすり合わせるわけだ。5W1Hのうち、最低でも3W1Hまでは認識を揃えて合意形成をとっておきたい。

残る2W(いつ、どこで)については、目線合わせが済んだ後にすり合わせればいい。

では何故、これらの点について目線を合わせる必要があるのか?
それは、人が動くためにはどうしても納得感というやつが必要だから。

言ってしまえば、システム管理者サイドと現場サイドが衝突するとき、後者は“納得できない”と叫んでいるのだ。

「現場の状況も考えてくれ」
「なんで今やるんだ」
「それは本当に必要なのか」

こういった不平不満を耳にした経験がある人も居ることだろうが、いずれも本質的には「納得できません」と言っているだけである。

その“納得感”を得るために必要なものが「何を目的に、何故、何を、どのようにやるのか」という点であり、もう少し整理すると先に列記した7つに集約されるわけだ。

 

温度感の伝え方には注意が必要

温度感、つまり「そのプロジェクトがどれくらい重要で、どれくらい優先的に取り組むべきと考えているのか」という点。

これを伝えるときに注意して欲しいのが、主語を“We”にするということ。
システム管理者目線で語るのではなく、出来れば経営層目線…最低でも相手(現場)目線での温度感を伝えて欲しい。

例えば、VPNの導入というプロジェクトを推進するとしよう。

現場サイドのリテラシー如何によってはすんなり通る話だろうが、理解が浅い相手だと「なんでそんな面倒な設定をしなくてはいけないのか」と“納得感”を得られる説明を求めてくるだろう。

そのとき、単に「社外のネットワークには脆弱性があるため、セキュリティ面でのリスクヘッジ対応として必要」みたいな話をするだけでは、相手を乗り気にさせることは難しい。

ところが、これを「皆さんの仕事は会社にとって大事な資産であり、漏洩するとこれまで積み上げてきたものが無駄になってしまう。それは会社としても絶対に避けたいし、皆さんとしてもぞっとしませんよね。そのリスクを可能な限り回避するには、VPNの導入がどうしてもマストで必要なのです」といった語り方にしてみるとどうだろう。

少なくとも、納得感は醸成できるに違いない。

何が言いたいのかというと、押しつけは良くないという話だ。

もちろん“温度感”だけでなく、その他6つの要素について語る際も、主語はなるべく“We”にしていただきたい。
目線を合わせるというのは、相手の視点を自らの立場に引っ張ってくるより、こちら側から歩み寄る方がスムーズに行えるものなのだから。

ややディティールに依りすぎているきらいがあるが、伝え方というのはプロジェクトを正しく推進するうえで重要なファクターである。

 

“効果測定”が将来のプロジェクト推進を円滑にする

さて、目線が合ったプロジェクトについては、特に難なく推進することができるだろう。
それを丁寧に取り組んだことがないチームにとっては負担が大きいだろうが、その価値は過去9年間で数々のプロジェクトに関与してきた私が保証する。

ただ、プロジェクトが発足するたびに多大な負担がかかる状態というのも、健全ではあるまい。

最初の一歩を踏み出したら、あとはスムーズに推進し続けられる。それが理想。

その理想を体現するために、ぜひ取り組んでみてほしいのが“効果測定”だ。

つまり“施策展開したことで、どれくらいの数値インパクトがあったのかという点の可視化”である。

情シス業務というのは“守り”を主としているケースが多い都合、業績に対してどれくらいポジティブな影響をもたらせたのかを数値化するのは、ハッキリ言って難しい。

とはいえ“万が一リスク回避できなかったらどれくらいの損失があったのか”を概算したり、“削減できたコストの大きさ”を出したりすることは可能だろう。

それを実践したうえで、ぜひとも現場にレポートしてみてほしい。

先述した通り、人間は“納得感”を求めてる。
それは未来の事柄(これから推進するプロジェクト)だけでなく、過去に対しても同じなのだ。

やったことの効果が見えない状態というのは、納得感が無いだけでなく不信感すら募らせてしまう。

その“募る不信感”は、プロジェクトを推進したシステム管理者に対するものだ。

簡単な話「やりっぱなしはダメだよね」ということなのだが、これを徹底するのはなかなか根気がいる。

本来レポートしなくてもいい(いや、本来はするべきなのだが)相手に、手間暇をかけて計測した数値を報告する。非常に面倒な仕事だ。

だがその手間は、“信頼関係”という仕事を進めるうえで最も大事な財産を形成してくれる。

信頼関係の構築ができたシステム管理者と現場との間で、無意味な衝突や鍔迫り合いが再発する心配は無いだろう。

 

最初に変えるべきは自らの視点

ここまでにご説明した内容は、自らをプロジェクトオーナーと定義している人なら、当たり前のことでしかないものばかり。

もし「目から鱗が落ちるようだ」と感じた人がいるなら、ご自身の課題は“視座”にあると考えていただきたい。

プロジェクト推進にあたって取り組むべきは目線合わせだが、最初に変えるべきは自らの視点なのだ。

自らの仕事を単なる業務と見ず、プロジェクトと再認識する。
すると、主語は“私”から“我々(We)”になる。
その“我々”をチーム→相手→組織全体(会社)というようにアップデートしていけば、おのずと選ぶ言葉も伝え方も最適化されていくだろう。

内容を問わず、会社という場所で執り行われる仕事というのは、すべからく人と人との関係に基づく。
人と人をつなぐのは、言うまでもなくコミュニケーションである。

コミュニケーションとは、認識齟齬を埋めるためのツールに他ならない。

そのように認識したうえで、次回プロジェクトを恙なく推進するため“目線合わせ”には丁寧に取り組んでみてほしい。

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筆者紹介

奥山 裕基
Okuyama Yuki

大学卒業後、服飾業界と教育業界を経てポート株式会社へ。
入社後は多数の新規メディア立ち上げに参画し、自身も有資格者ライターとして2,000本を超える記事を執筆。
現在は「非日常領域に於ける読者の最適な意思決定を支援する」という信念のもと、株式会社INE(PORTグループ)と連携し、主にエネルギー領域のメディ運用責任者を務めている。

・ポート株式会社:https://www.theport.jp/
・株式会社INE:https://www.ine-grp.co.jp/

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